七三しちさん)” の例文
ト、舞台は車軸を流すような豪雨となり、折から山中の夕暗ゆうやみ、だんまり模様よろしくあって引っぱり、九女八役くめはちやくは、花道七三しちさんこもをかぶって丸くなる。
市川九女八 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
八とおぼしいその年頃とこのへんでは余り見かけない七三しちさんに割った女優髷じょゆうまげとに、兼太郎は何の気もなくその顔を見た。
雪解 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
来年卒業証書を握ったらべそ子嬢に結婚を申込もうなんと思いの夢魂七三しちさんにへばりつくのとはちと違って居た。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
素襖すおうをきて大太刀おおだちをはいた姿——あれに魂がはいって揚幕から花道にゆるぎ出た時、さらに花道の七三しちさんに坐って、例の“東夷西戎南蛮北狄”の長台詞を朗々たる名調子で淀みなくつらねた時
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
何處どこ大商店だいしやうてん避難ひなんした……店員てんゐんたちが交代かうたい貨物くわもつばんをするらしくて、がたには七三しちさんかみで、眞白まつしろで、このなか友染いうぜん模樣もやう派手はで單衣ひとへた、女優ぢよいうまがひの女店員をんなてんゐん二三人にさんにん姿すがたえた。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
たしか十分じつぷんおくれましたわね、ういへば、十時五十分じふじごじつぷんとかつてなすつたやうでした。——時間じかんかはつたのかもれません。」ときは、七三しちさんや、みゝかくしだと時間じかん間違まちがひはなからう。
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)