丁々ちょうちょう)” の例文
最後に婦人は口中より一本の釘をはき出して、これを彼二十一歳の男子と記したる紙片に推当おしあて、鉄槌をもて丁々ちょうちょうと打ちたりけり。
黒壁 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「そうだ、なるほど」おのをひっさげた二人の者が、根方へ寄って、がつんとやいばを入れた。斧の光が丁々ちょうちょうと大樹の白い肉片を削って飛ばした。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
伐木ばつぼく丁々ちょうちょう山さらに幽なりで、再生したことがかえって真の悲劇という感じを深くしているようにわたしには思われるのです。
ハムレット (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「少しはおだやかになったね」と甲野さんは左右の岸に眼を放つ。踏む角も見えぬ切っ立った山のはるかの上に、なたの音が丁々ちょうちょうとする。黒い影は空高く動く。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
欲しくなるとじっとしてはおられないのがこの少年の癖で、とうとう庭へ下りて、丁々ちょうちょうとその一本の竹を切って取り、手際よくこしらえ上げたのが一管の、一節切ひとよぎりに似たものです。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
と、悪鬼あっきこぶしを固めて、青竜王を丁々ちょうちょうなぐった。探偵は歯を喰い縛ってこらえた。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
袈裟板けさいたのあたりから桑胴くわどうの下まで、丁々ちょうちょうと、三打ち四打ち、血の出るような刃音だった。武蔵は自分の骨へなたを加えられたような痛みを覚えた。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
丁々ちょうちょうと点火にとりかかりましたが、手器用に火がつくと、蝋燭ろうそくが燃え出し、鎖を引くと蛇腹じゃばらが現われて、表には桐の紋、その下に「山科光仙林」の五字が油墨あざやかに現われました。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「あの木立こだちは枝をおろした事がないと見える。梅雨つゆもだいぶ続いた。よう飽きもせずに降るの」とひとごとのように言いながら、ふと思い出したていにて、膝頭ひざがしら丁々ちょうちょうと平手をたてに切ってたたく。
一夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
丁々ちょうちょう閃々せんせん、ひたいに汗をかいて、幾十合と接戦のおめきはあげつづけているものの、ともすれば、ああ美しい女だ! とつい思い、がねの火花にも、何か
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
云いながら、但馬守の手にある木剣は、丁々ちょうちょうと、又十郎の五体を何度も打ち続けていた。
柳生月影抄 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
武蔵は、肌を脱ぎ、斧をふるって樹をり出した。丁々ちょうちょうと、生木の肉が白く飛ぶ。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
丁々ちょうちょうと打ってこらした上、千浪と御方を無理に誘って、自分の住居に誘い入れた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かんのふるえを歯の根に鳴らして、赤い縮緬ちりめん襟裏えりうらをつかむや否、ズルズルッと座敷じゅうを引きずり廻して、それでもなお堪忍のなりきらぬように、こぶしをあげて丁々ちょうちょうとお蝶の肩を打ちすえました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あなたでは民部みんぶの苦戦、ここでは伊那丸と咲耶子が、腹背ふくはいの敵にはさみ討ちとされている。二ヵ所の狂瀾きょうらんはすさまじい旋風せんぷうのごとく、たばしる血汐ちしお丁々ちょうちょうときらめくやいば、目もけられない修羅しゅらの血戦。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)