一昨日をととひ)” の例文
「私の決心は一昨日をととひとは變つて居りません。それよりかも一歩進めて考へました。私は貴方と別れます。今日限り別れます。」
計画 (旧字旧仮名) / 平出修(著)
莫斯科モスコオまで後がもう五晩あると思つて溜息を吐いたり、昨日きのふ一昨日をととひも出したのに又子供達に出す葉書を書いたりして居た。
巴里まで (旧字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
一昨日をととひ俺と鮎釣に行つて、夕立に会つたんですよ。それで以て山内は弱いから風邪を引いたんだ。』
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
かたはらに来合せた巡査に日本の汽船が碇泊して居るかと聞いたら、一昨日をととひ常陸丸が出て仕舞しまつたと語つて
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
「全くよ。一昨日をととひの晩あたりの私の心配と云つたら、こりやどうだかと、さう思つたくらゐ、今考へて見れば、自分ながら好く出られたの。やつぱり尽きない縁なのだわ」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
みんな早うのうよ。——お主達ぬしだちも早うなないと、見よ、今に南蛮寺の門に食はれるぞよ。恐いぞ、恐いぞ。昨日きのふ一昨日をととひも人が食はれたさうぢや。皆、去なうよ。去なうよ。
南蛮寺門前 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
何故自殺までしたかといふ事については一昨日をととひも言つた通りだが、も少し詳しく言ふと、一つには抱月氏が亡くなつた悲しさに堪へられなかつたのと、今一つはその周囲が
それ一昨日をととひの晩ぢや、彼岸會ひがんゑで檀家の女子供のお詣りも多いことだから、出して掛けたまゝたつた一と晩だけそのまゝにして置いた。これは毎年の例で今年に限つたことではない。
一昨日をととひ狩の帰りに、或講師の説法を聴聞ちやうもんしたと御思ひなされい。その講師の申されるのを聞けば、どのやうな破戒の罪人でも、阿弥陀仏に知遇ちぐうし奉れば、浄土に往かれると申す事ぢや。
往生絵巻 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
たしかに昨日も一昨日をととひも人の居ないところをせっせと歩いてゐたんだが。いや、もっと前から歩いてゐたぞ。もう一年も歩いてゐるぞ。その目的はと、はてな、忘れたぞ。こいつはいけない。
楢ノ木大学士の野宿 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
雪子が繰かへす言の葉は昨日も今日も一昨日をととひも、三月の以前もその前も、更にことなる事をば言はざりき、唇に絶えぬは植村といふ名、ゆるしたまへと言ふ言葉、学校といひ、手紙といひ、我罪
うつせみ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
日がな終日ひねもす、昼もも、一昨日をととひも、昨日きのふも、今日けふ
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
さうして、そのまばゆい光に、光沢つやのいい毛皮を洗はせながら、一疋の獣が、おとなしく、坐つてゐる。見るとそれは一昨日をととひ、利仁が枯野の路で手捕りにした、あの阪本の野狐であつた。
芋粥 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
脈の昂進こうしんれる外にさばかり憂ふべき所もなしと語られさふらひしかば心やすくなり申しさふらふ。君もうれしとし給はんなど、昨日きのふ一昨日をととひわがさま知り給ふならねど思はれ申しさふらふゆふべかゆを乞ひ申しさふらふ
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
来てはゐましたが一昨日をととひの晩の処にでなしに、おぢいさんのとまる処よりももっと高いところで小さな枝の二本行きちがひ、それからもっと小さな枝が四五本出て、一寸ちょっとさかづきのやうな形になった処へ
二十六夜 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
宛然まるで洋盃コツプ一昨日をととひ注いだビールの様だ。仕様のない顔だよ。
漂泊 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)