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ゆきとよぎみ
此君にして
此臣あり、
十萬石の
政治を
掌に
握りて
富國強兵の
基を
開きし、
恩田杢は、
幸豐公の
活眼にて、
擢出られし
人にぞありける。
一同これはと
恐れ
謹みけるに、
良ありて
幸豐公、
御顏を
斜に
見返り
給ひ、「
杢、
杢」と
召し
給へば、
遙か
末座の
方にて、
阿と
應へつ、
白面の
若武士、
少しく
列よりずり
出でたり。
斯くて
幸豐君は
杢を
擧げて、
一國の
老職となさむと
思はれけるが、もとより
亂世にあらざれば、
取立ててこれぞといふ
功は
渠に
無きものを、みだりに
重く
用ゐむは、
偏頗あるやうにて
後暗く