-
トップ
>
-
うちゆ
二階が、また
二階が
見える。
黒い
柱に、
煤け
行燈。
木賃御泊宿——
内湯あり——と、
雨ざらしに
成つたのを、
恁う……
見ると、
今めかしき
事ながら、
芭蕉が
奧の
細道に……
此の
景勝愉樂の
郷にして、
内湯のないのを
遺憾とす、と
云ふ、
贅澤なのもあるけれども、
何、
青天井、いや、
滴る
青葉の
雫の
中なる
廊下續きだと
思へば、
渡つて
通る
橋にも、
川にも
湯氣が
温く、
目の
下なる
湯殿の
窓明に、
錦葉を
映すが
如く
色づいて、むくりと
此の
二階の
軒を
掠めて、
中庭の
池らしい、さら/\と
鳴る
水の
音に
搖れかゝるから、
内湯の
在所は
聞かないでも
分る。