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あほむ
「是は
何でせう」と云つて、
仰向いた。
頭の
上には大きな
椎の木が、日の
目の
洩らない程
厚い葉を
茂らして、丸い
形に、
水際迄張り出してゐた。
仰向いて
下から三四郎を見た。
顔を
故の
如くに落ち
付けてゐる。
眼丈は
動いた。それも三四郎の真正面で穏やかに
留つた。三四郎は女を多少疲れてゐると判じた。
すると向から与次郎が足早にやつて
来た。窓の
下迄
来て
仰向いて、三四郎の顔を見上げて、「おい、
居るか」と云ふ。三四郎は上から、与次郎を
見下して「うん、
居る」と云ふ。
代助はそれを
大きな
字引の
上に
載せた。さうして、其
傍に
枕を
置いて
仰向けに倒れた。
黒い
頭が丁度
鉢の
陰になつて、花から
出る
香が、
好い具合に
鼻に
通つた。代助は
其香を
嗅ぎながら
仮寐をした。
さうして
金縁の
眼鏡を掛けて、物を
見るときには、
顎を
前へ
出して、
心持仰向く
癖があつた。代助は
此男を見たとき、
何所か
見覚のある様な気がした。が、ついに思ひ
出さうと
力めても見なかつた。