仰向あほむ)” の例文
「是はなんでせう」と云つて、仰向あほむいた。あたまうへには大きなしいの木が、日のらない程あつい葉をしげらして、丸いかたちに、水際みづぎは迄張り出してゐた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
仰向あほむいてしたから三四郎を見た。かほもとごとくに落ちけてゐる。丈はうごいた。それも三四郎の真正面で穏やかにとまつた。三四郎は女を多少疲れてゐると判じた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
すると向から与次郎が足早にやつてた。窓のした仰向あほむいて、三四郎の顔を見上げて、「おい、るか」と云ふ。三四郎は上から、与次郎を見下みおろして「うん、る」と云ふ。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
代助はそれをおほきな字引じびきうへせた。さうして、其そばまくらいて仰向あほむけに倒れた。くろあたまが丁度はちかげになつて、花からにほひが、い具合にはなかよつた。代助は其香そのにほひぎながら仮寐うたゝねをした。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
さうして金縁きんぶち眼鏡めがねを掛けて、物をるときには、あごまへして、心持こゝろもち仰向あほむくせがあつた。代助はこの男を見たとき、何所どこ見覚みおぼえのある様な気がした。が、ついに思ひさうとつとめても見なかつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)