心着こゝろづ)” の例文
はて、なんだ、とおもひながら、こゑけようとして、ひとしはぶきをすると、これはじめて心着こゝろづいたらしく、あらをんなかほげた。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
かれには悲愴ひさうかんほかに、だ一しゆ心細こゝろぼそかんじが、こと日暮ひぐれよりかけて、しんみりとみておぼえた。これ麥酒ビールと、たばことが、しいのでつたとかれつひ心着こゝろづく。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
今日こんにちは、」と、こゑけたが、フト引戻ひきもどさるゝやうにしてのぞいてた、心着こゝろづくと、自分じぶん挨拶あいさつしたつもりの婦人をんなはこのひとではない。
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
最早もはや最後さいごかとおもときに、鎭守ちんじゆやしろまへにあることに心着こゝろづいたのであります。同時どうじみねとがつたやうな眞白まつしろすぎ大木たいぼくました。
雪霊続記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
先刻さつきから、出入ではひりのおあき素振そぶりに、けた、爐邊ろべりものをして母親はゝおやが、戸外おもて手間てまれるのに、フト心着こゝろづいて
一席話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「よう。」とつて、茫然ばうぜんとしてつた。が、ちよこ/\と衣紋繕えもんづくろひをして、くるまけはじめる。とたぼ心着こゝろづいたか一寸々々ちよい/\此方こなた振返ふりかへる。
麦搗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
酔過ゑひすごしてねたるなれば、今お村が僵れ込みて、おのかたへに気を失ひ枕をならべて伏したりとも、心着こゝろづかざるさまになむ。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
そのときまでは、ほとん自分じぶんなにをするかに心着こゝろづいてないやう、無意識むいしきあひだにしてたらしいが、フトめて、俯向うつむいて、じつとて、またこずゑあふいで
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
つたばかりで(考慮かんがへのないはづかしさは、れをいたときつなには心着こゝろづかなかつた、勿論もちろんあとことで)ときは……とつたばかりで、くちをつぐんだ。
飯坂ゆき (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
御迷惑ごめいわくぞんぜぬが、もやそで擦合すれあうた御縁ごえんとて、ぴつたりむねあたことがありましたにより、お心着こゝろづ申上まをしあげます……お聞入きゝいれ、お取棄とりすて、ともお心次第こゝろしだい
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
はい、みづみなもとたきでございます、此山このやまたびするおかたみな大風おほかぜのやうなおと何処どこかできます。貴僧あなた此方こちら被入いらつしやるみちでお心着こゝろづきはなさいませんかい。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
すなうへ唯一人たゞひとりやがてほしひとつないしたに、はてのない蒼海あをうみなみに、あはれ果敢はかない、よわい、ちからのない、身體からだ單個ひとつもてあそばれて、刎返はねかへされてるのだ、と心着こゝろづいて悚然ぞつとした。
星あかり (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
はじめ、もうのあたりから、やまべうとして諏訪すはみづうみみづよしいてはたが、ふと心着こゝろづかずにぎた、——にして、をんなあとばかりながめてたので。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
いえ、彼處あすこ供待ともまちをしました、あのてあひみんな遊廓くるわのでござりますで、看板かんばんがどれも新地組合しんちくみあひしるし麗々れい/\いてござります。ねえさんたちが心着こゝろづけたでござりませう。
月夜車 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
たちま心着こゝろづくと、おなところばかりではない。縁側えんがはから、まちはゞ一杯いつぱいに、あをしやに、眞紅しんくあか薄樺うすかばかすりかしたやうに、一面いちめんんで、びつゝ、すら/\としてく。
番茶話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「あら苦し、堪難たへがたや、あれよ/\」と叫びたりしが、次第にものも謂はずなりて、夜も明方に到りては、ただ泣く声の聞えしのみ、されば家内の誰彼たれかれは藪の中とは心着こゝろづかで
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
衣絞えもんあかるく心着こゝろづきけむ、ぎん青海波せいかいは扇子あふぎなかばほたるよりづハツとおもておほへるに、かぜさら/\とそよぎつゝ、ひかり袖口そでくちよりはらりとこぼれて、窓外さうぐわいもりなほうつくしきかげをぞきたる。
婦人十一題 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
七八人しちはちにんむらがりむに、おの/\つまたいしてならしてむつまじきことかぎりなし。かうけてみなわかとき令史れいしつまうまる。こしもとまたそのかめりけるが心着こゝろづいてさけんでいはく、かめなかひとあり。と。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
また奥方様おくがたさまをくはせる……あまつさへ、いま心着こゝろづいて、みゝませてけば、われみづからも、ごろでは鉦太鼓かねたいここそらさぬけれども、土俗どぞくいまる……天狗てんぐさらはれたものをさが方法しかた
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
青年わかものくから心着こゝろづいて、仏舎利ぶつしやりのやうにさゝげてたのを、そつ美女たをやめまへした。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
おもはず彫像てうざういた暖炉ストーブ心着こゝろづいて、何故なぜか、きふをんなあやぶまれてた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
成程なるほど覺束おぼつかない、もののかたちも、たゞひとあかりかげなのである……心着こゝろづくと、便たよりないいろながら、ちからには、そろつてえた街燈がいとうが、時々とき/″\ぎら/\とひかりさへする——もやいきいてまたゝうち
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
あたりは眞暗まつくらところに、むしよりもちひさ身體からだで、この大木たいぼくあたか注連繩しめなはしたあたりにのこぎりつきさしてるのに心着こゝろづいて、恍惚うつとりとしてみはつたが、とほくなるやうだから、のこぎりかうとすると
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
それとにはか心着こゝろづけば、天窓あたまより爪先まで氷を浴ぶる心地して、歯の根も合はずわなゝきつゝ、不気味にへぬ顔をげて、手燭ぼんぼりの影かすかに血の足痕あしあと仰見あふぎみる時しも、天井より糸を引きて一疋いつぴきの蜘蛛垂下たれさが
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ねつのある身體からだはもんどりをつて、もとのまゝ寢床ねどこうへにドツとをどるのがくうなげうつやうで、心着こゝろづくと地震ぢしんかとおもつたが、つめたあせたきのやうにながれて、やがてまくらについて綿わたのやうになつてわれかへつた。
怪談女の輪 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)