𣠽つか)” の例文
その、美少女の左の胸のふくらみの下には、何時いつ刺されたのか、白い𣠽つかのついた匕首あいくちが一本、無気味な刃をちぬらして突刺っているのだ。
鱗粉 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
熱湯を浴びた二人ふたりが先に、𣠽つかに手を掛けた刀をも抜かずに、座敷から縁側へ、縁側から庭へ逃げた。跡の一人も続いて逃げた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
『おお‼』清水は突き出されたその短剣の𣠽つかに目をやると、うめいた。其処には白く、菊花を彫った象牙の飾りが嵌められていたのである……
象牙の牌 (新字新仮名) / 渡辺温(著)
そして中から𣠽つかも刀身も共に鋼鉄製のピカピカとひかった二ふりの細長い伊太利イタリー剣を取出して芝生にザックと突刺した。
その脊の高い男が突然地面から起き上って、馬車をめがけて走って来た時、侯爵閣下は一瞬剣の𣠽つかにはっと手をかけた。
宮はすかさずをどかかりて、我物得つと手に為れば、遣らじと満枝の組付くを、推隔おしへだつるわきの下より後突うしろづきに、𣠽つかとほれと刺したる急所、一声さけびて仰反のけぞる満枝。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
声のぬしは将軍だった。将軍は太い軍刀の𣠽つかに、手袋の両手を重ねたまま、厳然と舞台をにらんで居た。
将軍 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
耳形みゝがた𣠽つかつかんでそのけんをおきゃれ、はやうせぬと乃公おれけん足下おぬし耳元みゝもとへお見舞みままうすぞ。
尿にょうのように見えた液体は、丁子を煮出した汁であるらしく、糞のように見えた固形物は、野老ところ合薫物あわせたきもの甘葛あまずらの汁で煉り固めて、大きな筆の𣠽つかに入れて押し出したものらしいのであったが
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
丁度美しい小娘がジュポンのすそつまんで、ぬかるみをまたごうとしているのを見附けた竜騎兵中尉は、左の手に𣠽つかを握っていた軍刀を高く持ち上げて、極めて熱心にその娘の足附きを見ていたが
と、刀身近く刀の𣠽つかを握りしめると、源氏の船に乗り移っては、「判官はおらぬか、判官、出て来い」と探し廻った。一寸でも手向う者はたちまち、鋭い教経の一太刀にばたばたと倒れていった。
剣の𣠽つかに手をかけて目を配っていた。ルイ十五世広場には、馬にまたがりラッパを先頭にした四個中隊の重騎兵が、弾薬盒だんやくごうをふくらし小銃や短銃に弾丸をこめ、今にも出動せんとしてるのが見られた。
刀の𣠽つかに手を掛けて立ち上った三人の客を前に控えて、四畳半のはし近く坐していた抽斎は、客から目を放さずに、障子の開いた口をななめ見遣みやった。そして妻五百の異様な姿に驚いた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
その𣠽つかに一片の紙が巻きつけてあって、その紙にはこう走り書きしてあった。——
三人はたがい目語もくごして身を起し、刀の𣠽つかに手を掛けて抽斎を囲んだ。そしていった。我らのことを信ぜぬというは無礼である。かつ重要の御使おんつかいを承わってこれを果さずにかえっては面目めんぼくが立たない。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)