魔除まよ)” の例文
ガラッ八は死骸の枕許に置いてあった、魔除まよけの脇差を取上げました。言うまでもなく三日前にガラッ八が吉三郎に売った、十両の赤鰯丸です。
今でも大草履おおぞうり魔除まよけとするごとく、彼ら独特の畏嚇法いかくほうをもってなるべく平地人を廻避した手段であったかも知れませぬ。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
それこそはたびたび聞いた西蔵チベット魔除まよけのはたなのでした。ネネムはげ出しました。まっ黒なけわしい岩のみねの上をどこまでもどこまでも逃げました。
すると、その言葉が何か魔除まよけの呪文じゅもんででもあったかのように、塀の上の目鼻も判然としない杓文字しゃもじに似た小さい顔が、すっと消えた。跡には、ゆすら梅が白く咲いていた。
春の盗賊 (新字新仮名) / 太宰治(著)
ふと、前刻さっきの花道を思い出して、どこで覚えたか、魔除まよけのじゅのように、わざと素よみの口のうちで、一歩ひとあし二歩ふたあし、擬宝珠へ寄った処は、あいてはどうやら鞍馬の山の御曹子おんぞうし
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「どんじき、などと、お書きくださって、なんの意味か、通じはしませぬが、そういう有徳うとくなお方の看板でも出しておいたら、少しは貧乏神の魔除まよけになるかと思いましてな」
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ガラツ八は死骸の枕元に置いてあつた、魔除まよけの脇差を取上げました。言ふまでもなく三日前にガラツ八が吉三郎に賣つた、十兩の赤鰯丸あかいわしまるです。
見てください、そこの化粧台の抽斗ひきだしを。いつも魔除まよけの短刀を入れておくんです。つい、こないだの晩だって、私は刃を抜いて見せてやりました。乱暴するなら自分の手で死んでやるって。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この時もいたく胸騒むなさわぎして、平生へいぜい魔除まよけとして危急ききゅうの時のために用意したる黄金おうごんたまを取り出し、これによもぎを巻きつけて打ち放したれど、鹿はなお動かず、あまり怪しければ近よりて見るに
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
この腰の物は、魔除まよけに、と云う細君の心添こころぞえで。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ははあ、それで拙者のような旅人を、魔除まよけにお泊めなさるわけだな」
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ある山中さんちゅうにて小屋こやを作るいとまなくて、とある大木の下に寄り、魔除まよけのサンズなわをおのれと木のめぐりに三囲みめぐり引きめぐらし、鉄砲をたてかかえてまどろみたりしに、夜深く物音のするに心づけば
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
なんの魔除まよけだろう。どれ、あれよ。ありゃ千社札さ。フーム客がいたずらしたんだな。なにさ納札のうさつの連中ときたらきがあると人の顔にでもはりかねない。そいつはやッけえな代物しろものだ。まったく。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)