魂魄たましい)” の例文
イヤ、骨身に徹するどころではない、魂魄たましいなどもとっくに飛出してしまって、力寿の懐中ふところの奥深くにもぐり込んで居たのである。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
其間そのあいだも彼は山椿の枝を放さなかった。紅いつぼみくに砕けてしまったが、恋しき女の魂魄たましいが宿れるもののように、彼はの枯枝を大事に抱えていた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
無事で帰ったというよりは、殺された魂魄たましいが煙の如く立ち迷うて、ここへ流れついたと見るのが至当かも知れない。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
あとに残った魂魄たましいだけが眺めているような……そんなような陰惨な、悽愴とした感じ……。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
俯していらえなき内儀のうなじを、出刃にてぺたぺたとたたけり。内儀は魂魄たましいも身に添わず
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
死んで魂魄たましいが身体から離れるは此の様な気持ではあるまいか、併し余の呻き声に
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
魂魄たましいばかりに成り申したら帰りも致そう、生身で一あしでも後へさがろうか、とののしって悪戦苦闘の有る限りを尽した。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
せめてもの心床こころゆかしに、市郎は父の名を呼んだが、魂魄たましいの空しい人は何とも答えなかった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
云わば少しばかり金が出来たからとて公債を買って置こうなどという、そんなしらみッたかりの魂魄たましいとは魂魄が違う。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
彼は自分の魂魄たましいこの花に宿って、お葉の温かきなさけを受けているようにも思った。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
源太十兵衛時代にはこんなくだらぬ建物に泣いたり笑ったりしたそうなと云われる日には、なあ十兵衛、二人が舎利しゃり魂魄たましい粉灰こばいにされて消し飛ばさるるわ
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
十兵衛いよいよ五重塔の工事しごとするに定まってより寝ても起きてもそれ三昧ざんまい、朝の飯うにも心の中では塔をみ、夜の夢結ぶにも魂魄たましいは九輪の頂をめぐるほどなれば
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
悪い請求たのみをさえすらりといてくれし上、胸にわだかまりなくさっぱりと平日つねのごとく仕做しなされては、清吉かえって心羞うらはずかしく、どうやら魂魄たましいの底の方がむずがゆいように覚えられ
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
事情が何も分った訳ではないが、女の魂魄たましいとする鏡を売ろうとするに臨みての女の心や其事情がまざまざとむねに浮んで来て、定基は闇然として眼をつむって打仰いで、堪えがたい哀れを催した。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
不図ふと立聞たちぎきして魂魄たましいゆら/\と足さだまらず、其儘そのまま其処そこ逃出にげいだし人なき柴部屋しばべやに夢のごといると等しく、せぐりくる涙、あなた程の方の女房とは我身わがみためを思われてながら吉兵衛様の無礼過なめすぎた言葉恨めしく
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)