高座こうざ)” の例文
八畳の広間には、まんなかに浪花節を語る高座こうざができていて、そこにも紙やぬののビラがヒラヒラなびいた。室は風通しがよかった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
寄席よせ高座こうざにのぼる江戸風軽口の話口はなしくちをきくと、大概みんな自分の顔の棚下たなおろしや、出来そくなった生れつきのこきおろしをやる。
高座こうざ御簾みすをあげて、こういった家康は、ときに、四十の坂をこえたばかりの男ざかり、智謀ちぼうにとんだ名将のふうはおのずからそなわっている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が、この時あたりの乗客どもがすべて聴き耳を立ててきたので、彼は今手が明いて引き上げてきた高座こうざのうえの気分をまた自分の心に引きだしていた。
猫八 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
高座こうざ右側みぎわきには帳場格子ちょうばごうしのような仕切しきりを二方に立て廻して、その中に定連じょうれんの席が設けてあった。それから高座のうしろ縁側えんがわで、その先がまた庭になっていた。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
剣舞の次は幻燈げんとうだった。高座こうざおろした幕の上には、日清戦争にっしんせんそうの光景が、いろいろ映ったり消えたりした。大きな水柱みずばしらを揚げながら、「定遠ていえん」の沈没する所もあった。
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
衆人の視線は自然と沼南夫妻に集中して高座こうざよりは沼南夫妻のイチャツキの方に気を取られた。
三十年前の島田沼南 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
あたりは高座こうざで噺家がしゃべる通り、ぐるぐるぐるぐる廻っていて、本所だか、深川だか、処は更に分らぬが、わたくしはとかくするうち、何かにつまずきどしんと横倒れに転び
雪の日 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
寄席よせ高座こうざで、がんどうの明りに、えごうく浮き出てくる妖怪の顔や、角帯をキュッとしごいて、赤児の泣き声を聴かせるといったていの——そうしたユーモラスな怖ろしさではなかった。
人魚謎お岩殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
是はいかなる突拍子とっぴょうしもない話し家でも、高座こうざあがった早々そうそうからおかしいことをいう者が無いと同じで、むしろ最初はさりげなく、やがて高調してくる滑稽こっけいを、予想せしめただけでよいのであった。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
それでいて二人共に、高座こうざに顔をさらすことをはばからなかったのである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
講釈師の伯円が先ず第一に高座こうざで読みはじめる。
半七捕物帳:26 女行者 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「………」猫八もまた何か言ってみたくなったほど高座こうざで受けるお客からの待遇に対する不平が浮んでいた。
猫八 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
二人は小声で話しながら、大きな部屋にぎっしり詰まった人の頭を見回みまわした。その頭のうちで、高座こうざに近い前の方は、煙草の煙でかすんでいるようにぼんやり見えた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
二十年前亡友A氏と共にしばしばこのあたりの古寺ふるでらを訪うた頃の事やら、それよりまた更に十年のむかし噺家はなしかの弟子となって、このあたりの寄席よせ常盤亭ときわてい高座こうざに上った時の事などを
深川の散歩 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
手品てじな剣舞けんぶ幻燈げんとう大神楽だいかぐら——そう云う物ばかりかかっていた寄席は、身動きも出来ないほど大入おおいりだった。二人はしばらく待たされたのち、やっと高座こうざには遠い所へ、窮屈きゅうくつな腰をおろす事が出来た。
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
相模高座こうざ郡相原村大字橋本字当麻田
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
その奥に高座こうざができていて、いつでも寄席よせもしくは講演を開くような設備もある。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
同 高座こうざ
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)