青銅からかね)” の例文
青銅からかねのうす黒い花瓶の中から花心しべもあらわに白く浮き出している梅の花に、廓の春の夜らしいやわらかい匂いがあわくただよっていた。
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
こがらしの吹く町のかどには、青銅からかねのお前にまたがつた、やはり青銅からかねの宮殿下が、寒むさうな往来わうらい老若男女らうにやくなんによを、揚々と見おろして御出おいでになる。
動物園 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
江戸風な橋の欄干の上に青銅からかね擬宝珠ぎぼしがあり、古い魚河岸があり、桟橋があり、近くに鰹節かつおぶし問屋、蒲鉾かまぼこ屋などが軒を並べていて
食堂 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
青銅からかねの鳥居をくぐる。敷石の上に鳩が五六羽、時雨しぐれの中を遠近おちこちしている。唐人髷とうじんまげった半玉はんぎょく渋蛇しぶじゃをさして鳩を見ている。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
二羽の鍋鶴なべづるが、水のほとりで、汚れた翼をひろげていた。青銅からかねの大きな燈籠とうろうやら、おおきな伊豆石やらが、泉水をかこんでいる。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
王様と皇后がたいそう悲しまれて青銅からかねの上に金の延べ板をかぶせてその立像を造り記念のために町の目ぬきの所にそれをお立てになったのでした。
燕と王子 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
仕舞には羊が丸ごと煮えてゐた大きな青銅からかねの鍋さへも投げつけた。鍋は恐しい音を立てながら、バルタザアルの頭の上に落ちて脳天に傷を負はせた。
バルタザアル (新字旧仮名) / アナトール・フランス(著)
身の丈に二尺も余るほどの金剛杖を右の手について、左の手にさげた青銅からかね釣燈籠つりどうろうが半ば法衣ころもの袖に隠れて、その裏から洩れる白い光が、白蓮の花びらを散らしながら歩いているようです。
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
普通病気などで蒼褪あおざめるようなぶんではない、それはあだか緑青ろくしょうを塗ったとでもいおうか、まるで青銅からかねさびたような顔で、男ではあったが、頭髪かみのけが長く延びて、それが懶惰ものぐさそうに、むしゃくしゃと
青銅鬼 (新字新仮名) / 柳川春葉(著)
(私の記憶してゐる一つは、胸甲むねあてをつけた、こはい顏の男の人を寫したもので、一つは髮粉をふつて、眞珠の頸飾りをつけた貴婦人を描いたものだつた。)天井から下つた青銅からかね洋燈ランプや、外側が樫製の
もう一人は、黄色い法衣ころもを着て、耳に小さな青銅からかねの環をさげた、一見、象貌しやうばう奇古きこ沙門しやもんである。
酒虫 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
その余韻よいんが次第次第に下へおりて来た時分に、前の潜り戸のところへ姿を現わした盲法師の手には、前と同じような青銅からかねの釣燈籠が大事に抱えられていましたけれど、持って来た時とは違って
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
青銅からかねの王子の肩ではなかなかしのぎがたいほどになりました。
燕と王子 (新字新仮名) / 有島武郎(著)