露地ろじ)” の例文
住居蔵の裏が、せまい露地ろじひとつへだてて、そばやの飛離れた納屋なやがあったので、お昼過ぎると陰気なコットンコットンがはじまる。
ひるを過ぎても、墨江は帰らなかった。これはっておけないと賛五郎は考え出し、大小を落すと着流しのまま、家の露地ろじから出て行った。
死んだ千鳥 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なんとか助かるものなら人のおなさけにすがっても、助けてやりたいと思い、心を鬼にして、ある露地ろじに棄ててしまったのです
爆薬の花籠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
はじめさんの家では廓外との出入りには、やはり黒助湯の露地ろじにある炭屋の土間を通行させてもらっていた。そこから炭を買っていたからであろう。
桜林 (新字新仮名) / 小山清(著)
次の日の午時頃ひるごろ、浅草警察署の手で、今戸の橋場寄りの或露地ろじの中に、吉里が着て行ッたお熊の半天はんてん脱捨ぬぎすててあり
里の今昔 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
門口かどぐちから右へ折れると、ひと塀際へいぎわ伝いに石段を三つほどあがらなければならなかった。そこからは幅三尺ばかりの露地ろじで、抜けると広くてにぎやかな通りへ出た。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ここ瓦町の露地ろじの奥、諏訪栄三郎の留守宅にも、それにおとらない、凄じいひとつの争闘が開始されていた。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
牡山羊は大抵、狭い露地ろじの奥や、薄暗い瀬戸合いの突き当りで、壁に低く頭をぶっつけながら、慌てふためいて後脚ではねている姿を誰かに発見されるのが常である。
南方郵信 (新字新仮名) / 中村地平(著)
墜死の現場はこのデパートの裏に当る東北側の露地ろじで、血痕の凝結したアスファルトの道路の上には、附近の店員や労働者や早朝の通行人が、建物の屋上を見上げたり
デパートの絞刑吏 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
この界隈かいわいで有名な、そして自分もよく知っている売春婦が、こうしてどこからか見慣れぬ男を引っ張ってきて、これからそこらの露地ろじの暗い隅へでも隠れようとしているのだから
女肉を料理する男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
そういってひょいと露地ろじにはいろうとするのです。それを見た私はなんの気なしに
歪んだ夢 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
茶器を持ち込む前に洗ってそろえておく控えの間(水屋みずや)と、客が茶室へはいれと呼ばれるまで待っている玄関(待合まちあい)と、待合と茶室を連絡している庭の小道(露地ろじ)とから成っている。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
その夜は、ドロレス夫人の宿に泊めてもらうつもりで、この前のあわい記憶を辿たどって、見覚えのある露地ろじへ入りこんでいった。
英本土上陸戦の前夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
が顔へぶつかってくるような露地ろじだった。案のじょうそこへ入ると、薄ぐらい明りのさす門口かどぐちで、養父ちちの声がしていた。
鍋島甲斐守 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と鋭く叱りつけて、源十郎はそのまま、蔵宿の向う側森田町の露地ろじへずんずんはいり込む。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
露地ろじを入って右側の五軒長屋の二軒目、そこが阿久おひさの家で、即ち私の寄寓する家である。
深川の散歩 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
暗い小庭と不潔な露地ろじが網の目のように入りこんでいる陰惨な一劃いっかくである。
女肉を料理する男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
「伺わなくても露地ろじ白牛びゃくぎゅうを見ればすぐ分るはずだが」と、何だか通じない事を云う。寒月君はねぼけてあんな珍語をろうするのだろうと鑑定したから、わざと相手にならないで話頭を進めた。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
待っていると云ったが、清吉は、秀八の後からけて行った。しおくさい漁師町りょうしまち露地ろじへ、彼女は、小走りに入って行った。
春の雁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし何故なぜそんな地名を暗号の上にかかげてあるのだろう? それを考えた時、帆村探偵はハタと行き止りの露地ろじにつきあたったような気がした。
流線間諜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
見ると、露地ろじつづきの裏のすぐ彼方むこうに、注連縄しめなわの張り廻してある黒い鍛冶小屋の入口がすぐあった。
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「事件の最初、君がアパートの裏口へ廻ったときに、露地ろじに何か人影のようなものを見懸みかけたといったが、あれは男だったか、それとも女だったか、解らなかったかネ」
ゴールデン・バット事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
なにやら、うまそうに煮えているにおいもする。赤ちゃんが泣いている。よぼよぼしたお婆さんが、杖をつきながら露地ろじの奥からあらわれて、まぶしそうに、とおりをながめる。
爆薬の花籠 (新字新仮名) / 海野十三(著)