雪風ゆきかぜ)” の例文
雪風ゆきかぜに熱い頬を吹かせながら、お葉はいい心地こころもち庭前にわさきを眺めていると、松の樹の下に何だか白い物の蹲踞しゃがんでいるのを不図ふと見付けた。どうやら人のようである。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
敷合しきあはたゝみ三疊さんでふ丁度ちやうど座布團ざぶとんとともに、そのかたちだけ、ばさ/\のすゝになつて、うづたかくかさなつた。したすゝだらけ、みづびたしのなかかしこまつて、きつける雪風ゆきかぜ不安ふあんさに、そと勇氣ゆうきはない。
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
独語ひとりごとを云いながら、腰をかけるものがないから、河岸かしに並んで居ります、蔵のさしかけの下で、横鼻緒をたって居りますと、ぴゅーと吹掛けて来る雪風ゆきかぜに、肌がれるばかり、ふるいあがるおりから
ましとざされたるいえの内は殆ど真の闇であったが、彼はあやうくも吹き倒されんとする雪風ゆきかぜしのぐ為に、かくも一歩踏み込もうとする途端に、内には怪しい唸声うなりごえ断続きれぎれに聞えた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
が、心は矢竹やたけはやっても彼女かれはり女である。村境むらざかいまで来るうちに、遂に重太郎の姿を見失ったのみか、我も大浪おおなみのような雪風ゆきかぜに吹きられて、ある茅葺かやぶき屋根の軒下につまずき倒れた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)