雁皮がんぴ)” の例文
中には雁皮がんぴに包んだ白粉と、耳掻き、爪切り、紅筆べにふでなど、艶めかしい小道具の入つてゐるのを、一と通り調べて、そのまゝ、お葉の手に返します。
雁皮がんぴを横に二つ折りにたたんで綴じたのへ、細筆で細かくロンドンにいる父への手紙を書いていた母の横顔は、なんと白くふっくりとしていただろう。
(新字新仮名) / 宮本百合子(著)
ところが、がれた割れ口を見ると、それに痂皮かひが出来ていない。まるで透明な雁皮がんぴとしか思われないだろう。が、この方は明らかな死体現象なんだよ。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
一学は外から呼ばれた声に大きな驚異を持ちながら、筆を、うつしかけたイギリス語の雁皮がんぴの帳面の間へはさんで、あわただしく立って窓の障子を押開き
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
これはマア一つ話ですがそげな来歴わけで、後日しまいにはそのナメラでも満足たんのうせんようになって、そのナメラの中でも一番、毒の強い赤肝を雁皮がんぴのように薄く切ります。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
雁皮がんぴかうぞ三椏みつまたと、之が紙料の三位である。是等の三つの繊維に綾なすものが、もろもろの和紙である。
和紙の美 (新字旧仮名) / 柳宗悦(著)
対岸には大きな山毛欅ぶなもみが、うす暗く森々しんしんと聳えてゐた。稀に熊笹がまばらになると、雁皮がんぴらしい花が赤く咲いた、湿気の多い草の間に、放牧の牛馬の足跡が見えた。
槍ヶ岳紀行 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
その原稿と色や感じのよく似た雁皮がんぴ鳥の子紙に印刷したものを一枚一枚左側ページに貼付てんぷしてその下に邦文解説があり、反対の右側ページには英文テキストが印刷してある。
それから三条寺町てらまちまで歩いて、いつもの紙屋で大判の雁皮がんぴを十枚と表紙用の厚紙を一枚買い、それを私の日記帳の大きさにって貰い、しわにならないようにうまく包装して貰って
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
それは雁皮がんぴ紙縒こより渋汁しぶを引いた一種の糸で、袋のように編んだ物である。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
描いてあるのが紙本しほんの場合と絹本けんぽんの場合とで、薄美濃うすみのとか雁皮がんぴなどの、じかに貼る肌裏や、中裏、増裏など、それぞれ表に合った性質の紙を使わなければならないし、もちろん手漉てすきだから
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
いずれも雁皮がんぴの薄紙に細かく書いて有るのであった。
怪異黒姫おろし (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
山椒さんせうの皮を粉末にしたのに、胡椒こせうと石灰と、灰と何やら得體の知れぬ南蠻物らしい藥品を混ぜ、大人おとなの拳固ほどの一丸にして、雁皮がんぴに包んだのを相手の面上に叩き付け
さし渡し三寸ばかりのおわんと思えば間違いございません、雁皮がんぴを細く切ってそれを紙撚こよりにこしらえ、それでキセルの筒を編むと同じように編み上げた品を本格と致しやす
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
りん青年の手料理だが、新鮮無類の「北枕」……一名ナメラという一番スゴイふぐ赤肝あかぎもだ。御覧の通り雁皮がんぴみたいに薄切りした奴を、二時間以上も谷川の水でサラシた斯界極上しかいごくじょうの珍味なんだ。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
摂津せっつの国で特筆しなければならないのは、有馬郡塩瀬村の名塩なじおで出来る紙であります。古くから「間合紙まにあいがみ」と呼んでいるもので、雁皮がんぴを材料にし、これに細かい泥土をまぜてくものであります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
「大變な匂ひがするよ。それに、半紙に書いた遺書の下手な字と、この雁皮がんぴのうまい字とは大變な違ひだ。此方は確かに女の筆跡だ。お久良が心覺えに書いたものだらう」
羅生門河岸らしやうもんがしの青大將臭せえのとは違つて、大年増から中年増、新造から小娘まで揃ひも揃つたり、箱から出し立ての、雁皮がんぴを脱がせたばかりと言つた、樟腦臭しやうなうくさい綺麗首が六人
雁皮がんぴに書いて鳥の子で裏打ちし、金襴で装幀した砲術の巻物ではなくて、半面の赤痣を洗い落したお静——いや五年前、許婚いいなずけという空しい名を解消する折もなく別れた繁代の
江戸の火術 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
隱れた紙入のポケツトから取出したのは、これも薄く小さく疊んだ雁皮がんぴで、その上には
「餘程の腕利きであらうな、八丈の重ね着を一枚の雁皮がんぴのやうに斬つてある」
「余程の腕利きであろうな、八丈の重ね着を一枚の雁皮がんぴのように斬ってある」
「成程こいつは良い凧だ。第一唸りが良いね、雁皮がんぴで念入りの細工だ」