階段はしごだん)” の例文
二人はそのままいっしょに下宿へ帰った。上靴スリッパーかかとを鳴らして階段はしごだんを二つのぼり切った時、敬太郎は自分の部屋の障子を手早く開けて
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
まだペンキの香のする階段はしごだんを上って行って二階の部屋へ出ると、そこに沢山並べた書架ほんだながある。一段高いところに書籍ほんの掛りも居る。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ある時、須磨子が湯上りの身体からだに派手な沿衣ゆかた引掛ひつかけてとんとんと階段はしごだんあがつて自分の居間に入ると、ふと承塵なげしに懸つた額が目についた。
柳沢は最初はじめから、私が階段はしごだんを上って来たのを、じろじろと用心したような眼つきでみまもったきり口一つ利かないでやっぱり黙りつづけていた。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
格子戸を開けて入ると、一坪程の土間があって、三畳の玄関、そこからすぐに二階への階段はしごだんがついていた。男は黙ってその階段をあがって行った。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「まだ小供ですもの、ねえ」とお富はたって二人は暗い階段はしごだんを危なそうにり、お秀も一所に戸外そとへ出た。月は稍や西に傾いた。夜はしんと更けてる。
二少女 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
Kさんが立って呼鈴を押すと、とんとんとんと、いかにも面白そうに調子よく階段はしごだんを踏んで、女中さんが現れた。
聖書 (新字新仮名) / 生田春月(著)
目科は階段はしごだんに片足掛けしがたちまち何事をか思い出せし如く又も店番のもとに引返し
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
二階の階段はしごだんで演説をという命令である。
人格の養成 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
益満は、階段はしごだんの二段目から、首を延して
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
敬太郎はちょっと振り向いてうしろが見たくなった。その時階段はしごだんを踏む大きな音が聞こえて、三人ばかりの客がどやどやと一度にあがって来た。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
高い階段はしごだんを上ってゆくと、柳沢はあのさい体格からだに新調の荒い銘仙めいせんの茶と黒との伝法でんぼう厚褞袍あつどてらを着て、机の前にどっしりと趺座あぐらをかいている。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
入ると直ぐ下駄直しの仕事場で、脇の方に狭い階段はしごだんが付ていて、仕事場と奥とは障子で仕きってある。其障子が一枚かっていたが薄闇くって能く内が見えない。
二少女 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
幼い時分に二階の階段はしごだんから落ちて、ひどく脳を打って、それからあんな発育の後れたものに成ったとは、これまで彼女が家の人達にも、親戚にも、誰に向ってもそういう風にばかり話して来たが
ある女の生涯 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そして、階段はしごだんの上へ出ると
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
余はこの屋敷の長い廊下を一階二階三階と幾返いくかえり往来おうらいした。歩けば固い音がする。階段はしごだんあがるときはなおさらこつこつ鳴った。階段は鉄でできていた。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
土間からすぐ二階にかけた階段はしごだんを上ろうとして、ふと上り口に脱ぎすてた男女の下駄げたに気がつくと、幅の広い、よくまさの通った男の下駄はどうも柳沢の下駄に違いない。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
敬太郎はそっと立って目立たないように階段はしごだんあがくちまでおとなしく足を運ぶと、そこに立っていた給仕が大きな声で、「御立あち」と下へ知らせた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)