険悪けんあく)” の例文
旧字:險惡
険悪けんあくな実状にあったので、とうとう二日まえの十月十六日の夜、織田軍へしめし合わせるいとまもなく、無断で城中の一隅から火の手をあげてしまった。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
年の頃は五十あまり、眉と眉の間に、一線、刻んだような深い傷のあるのが、たださえあんまり柔和にゅうわでない先生の顔を、ことごとく険悪けんあくに見せている。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
議長さえ、まだそれほどの険悪けんあくな事態の中にあるとは考えないで、爆裂音を身近くに聞いたことをきょうがっている。
大久保おほくぼはちらとそれをると、いきなり険悪けんあくをして、「ちよツ」と苛々いら/\しげにしたうちしながら、こぶしをかためて、彼女かのぢよ鼻梁はなばしらたかとおもふほどなぐりつけた。
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
その背景はいけいとして、社会全体が険悪けんあくそうをおびていることは、誰も知らない。そして閑父は、赤ん坊が、博文の真似まねをするであろうかどうか、別に考えもせずにいた。
親は眺めて考えている (新字新仮名) / 金森徳次郎(著)
天候はいよいよ険悪けんあくを加え、正午ひるごろからがぜん大あらしに一変した。雨と風と海のものすごいひびきが、一団となって洞穴をおそう。それは夜にはいっていっそうはげしくなった。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
この雲行から察すると、治右の手がすでに将軍家にまでも伸びているのは言うまでもないこと、一言半句の失言があっても、御気色みけしきは愈々険悪けんあく、恐るべき御上意の下るのは知れ切ったことでした。
私達七名の同級生はく折り合った。野崎君と赤羽君も懇親会の組打が最後だった。互角ごかくのことが分ったのか、再び腕力に訴えるようなことはなかった。時折険悪けんあくになっても、直ぐに又肝胆相照かんたんあいてらす。
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
世間が物騒になるにつれて、人心もいっそう険悪けんあくになった。
これは天候てんこう険悪けんあくだぞ
はじめの調子の良さにくらべて、途中から険悪けんあくさを加えてのこの窮迫きゅうはくである。少年大使の運命はどうなることか。
火星探険 (新字新仮名) / 海野十三(著)
いま、勝家かついえ秀吉ひでよしの仲、日ごとに険悪けんあくとなりつつあることは天下の周知しゅうち。さだめし、秀吉が目をほそくしてよろこぶだろうと思うと、呂宋兵衛るそんべえがしゃべっているまに
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
女中さんは寝てしまう、妻が茶や菓子をもって来る。その面相めんそうたるや頗る険悪けんあくである。
親は眺めて考えている (新字新仮名) / 金森徳次郎(著)
「解ってるでしょう——」そういうチェリーの顔には、何となく険悪けんあくな気がみなぎっているのを発見した。
ゴールデン・バット事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
と、眼をみはり直して、愈〻、事態は険悪けんあくな対立の相を呈した。
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
他は其場そのばより遁走とんそういたしました。これに対して○国人側も非常に怒り、復讐を誓って、唯今準備中であります。両国の外交問題は、俄然がぜん険悪けんあくとなりました。以上。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
風雲すこぶる険悪けんあくである。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
並んでいる履物の種類によって、在宅中の顔触かおぶれも知れ、その上に履物の主の機嫌がよいか、それとも険悪けんあくかぐらいの判断がつくのであった。その日の玄関には、一足の履物も並んで居なかった。
振動魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
彼の眼は次第に険悪けんあくの色を濃くしていった。
(新字新仮名) / 海野十三(著)
そろそろ、空気は険悪けんあくになって来た。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)