閼伽あか)” の例文
閼伽あかの具はことに小さく作られてあって、白玉はくぎょく青玉せいぎょくで蓮の花の形にした幾つかの小香炉こうろには蜂蜜はちみつの甘い香を退けた荷葉香かようこうべられてある。
源氏物語:38 鈴虫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
金魚鉢の閼伽あかをかえること、盆栽の棚を洗うこと、蜘蛛くもの巣を払うこと、ようとさえ思えばることは何程いくらでも出て来た。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
薪とる里人さとびとの話によれば、庵の中には玉をまろばす如きやさしき聲して、讀經どきやう響絶ひゞきたゆる時なく、折々をり/\閼伽あか水汲みづくみに、谷川に下りし姿見たる人は
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
閼伽あか香華こうげの供養をば、その妻女一人につかさどらしめつゝ、ひたすらに現世げんぜの安穏、後生の善所を祈願し侍り。されども狂人の血をけ侍りし故にかありけむ。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
隣り寺、寺の古墓、日あたりはだも暑けど、墓掃くとかがむ影すら、閼伽あか汲むと寄るすらも無し。
観相の秋 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
なんでも檜垣寺というお寺があって(謡曲をよく御存じの方は飛ばして読んで下さい。どんなデタラメを言うかも知れませんよ)このお寺へ毎朝閼伽あかの水をささげにくる老婆がある。
青春論 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
庫裏に人気ひとけが無かったので井戸端の閼伽あか桶へ水を汲み自分で提げて墓地へ行った。
独り手向たむく閼伽あかみづ
寡婦の除夜 (新字旧仮名) / 内村鑑三(著)
朝に近い月光のもとで、僧たちが閼伽あかを仏に供える仕度したくをするのに、からからと音をさせながら、菊とか紅葉とかをその辺いっぱいに折り散らしている。
源氏物語:10 榊 (新字新仮名) / 紫式部(著)
或日瀧口、閼伽あかみづまんとて、まだけやらぬ空に往生院を出でて、近き泉の方に行きしに、みやこ六波羅わたりと覺しき方に、一道の火焔くわえんてんこがして立上たちのぼれり。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
今朝も見る閼伽あかの氷のさやけくて子はたたきゆく墓石ごとに
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
経巻の作りよう、仏像の飾り、ちょっとした閼伽あかの器具などにも空蝉のよい趣味が見えてなつかしかった。
源氏物語:23 初音 (新字新仮名) / 紫式部(著)
あゝ横笛、吾れ人共に誠の道に入りし上は、影よりもあはき昔の事は問ひもせじ語りもせじ、閼伽あか水汲みづくみ絶えて流れに宿す影留らず、觀經の音みて梢にとまる響なし。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
今朝も見る閼伽あかの氷のさやけくて子はたたきゆく墓石ごとに
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
御仏に後夜ごや勤行ごんぎょう閼伽あかの花を供える時、下級の尼の年若なのを呼んで、この紅梅の枝を折らせると、恨みを言うように花がこぼれ、香もこの時に強く立った。
源氏物語:55 手習 (新字新仮名) / 紫式部(著)
仏の閼伽あかの具などが縁に置かれてあるのを見て、源氏はその中が尼君の部屋であることに気がついた。
源氏物語:18 松風 (新字新仮名) / 紫式部(著)
十五夜の月がまだ上がらない夕方に、宮が仏間の縁に近い所で念誦ねんじゅをしておいでになると、外では若い尼たち二、三人が花をお供えする用意をしていて、閼伽あかの器具を扱う音と水の音とをたてていた。
源氏物語:38 鈴虫 (新字新仮名) / 紫式部(著)