門構もんがまえ)” の例文
「年が若くって起居たちいに不自由さえなければ丈夫だと思うんだろう。門構もんがまえうちに住んで下女げじょさえ使っていれば金でもあると考えるように」
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
暫くしてようやく判った。降りて見ればさすがに見覚えのある門構もんがまえ、あたり一軒も表をあけてる家もない。車屋には彼が云う通りの外に、少しばかり心づけをやる。
浜菊 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
しかし行く道は平家の住宅、別荘らしい門構もんがまえ、茅葺の農家、畠と松林のあいだを勝手次第に曲るたびたびまたも同じような岐路わかれみちへ入るのでたちまち方角もわからなくなる。
羊羹 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
と云いつゝ二三町参りますとかたわらの林の処に小さい門構もんがまえうちに、ちらりと燈火あかりが見えましたから
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
時に大原君よろこび給え。万事好都合で、好い時には好い事のあるものさ。君も知っているだろう、中川君の家の一軒置いた先に門構もんがまえ小綺麗こぎれいな家がある。あの家が今朝引越しさ。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
と云って、犬を抱いたままおりて、そばの立派な門構もんがまえの家へ入って往ったが、一時間近くなって出て来ないので、運転手はしかたなしにその家へ往った。すると一人の老婦人が出て
白い小犬を抱いた女 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
何しろ滅法めっぽう安値やすい家で、立派な門構もんがまえに、庭も広し、座敷も七間ななまあって、それで家賃がわずかに月三円五十銭というのだから、当時まだ独身者ひとりものの自分には、願ったりかなったりだと喜んで
怪物屋敷 (新字新仮名) / 柳川春葉(著)
と手がのびてたもとかれると春風今を駘蕩たけなわに、わらび独活うどの香に酔ったほど、馬は、うかうかと歩行あるき出したが、横畷よこなわて少しばかり入ると、真向うに樹立こだち深く、住静すみしずめた見事な門構もんがまえの屋敷が見える。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
甲武線の崖上がけうえ角並かどなみ新らしい立派な家に建てえられていずれも現代的日本の産み出した富の威力と切り放す事のできない門構もんがまえばかりである。
ケーベル先生 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
畠の作物もその種類がちがっている。茅葺の農家のみならず。瓦葺の二階建に硝子戸を引き廻した門構もんがまえの家も交っている。松林の中は日蔭になって吹き通う風の涼しさ。
買出し (新字新仮名) / 永井荷風(著)
前途さきは直ぐに阿部の安東村になる——近来ちかごろ評判のAB横町へ入ると、前庭に古びた黒塀をめぐらした、平屋の行詰った、それでも一軒立ちの門構もんがまえ、低く傾いたのに、独語教授、と看板だけ新しい。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今朝けさこの叔父おじの所をたずねたというお秀の自白が、話しをそっちへ持って行くに都合のいい便利を与えた。けれどもお秀の門構もんがまえは依然としてこの方面にも厳重であった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
西南戦争ののち程もなく、世の中は、謀反人むほんにんだの、刺客しかくだの、強盗だのと、殺伐さつばつ残忍ざんにんの話ばかり、少しく門構もんがまえの大きい地位ある人の屋敷や、土蔵のいかめしい商家の縁の下からは
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
先生が寓居は矢来町の何番地なりしや今記憶せざれど神楽坂かぐらざかを上りて寺町通てらまちどおりをまつすぐに行く事数町すうちょうにして左へ曲りたる細き横町よこちょうの右側、格子戸造こうしどづくり平家ひらやにてたしか門構もんがまえはなかりしと覚えたり。
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
その間に時々驚くほど大きな門構もんがまえの見えるのはことごとく製造場であった。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)