鋒先ほこさき)” の例文
ちょっと皮肉ひにくなところがありますが、やさしい微笑びしょうをたたえた皮肉で、世の中の不正やみにくさに、それとなくするど鋒先ほこさきを向けています。
母の話 (新字新仮名) / アナトール・フランス(著)
さように限りなき宇宙を一人の力で支配する神様はないはずだというところへ鋒先ほこさきを向け、そして例の宗教の否定が繰り返される。
ルクレチウスと科学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
幕府は老中罷免ひめんに対する反抗の意志を上疏じょうその手段に表白したばかりでなく、その鋒先ほこさきを「永々ながなが在京、事務にも通じた」というところの慶喜に向けた。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そして彼がいなくなると、その家族の者たちに非難の鋒先ほこさきを向けた。彼らはそれを自認してはいなかった。なぜならそれは不正なことだと知っていたから。
曾根少佐は、それまで多寡たかをくくったような調子で、応対おうたいしていたが、やっと俊亮の鋒先ほこさきを感じたらしく、急にいずまいを直して、口ひげをひねりあげた。
次郎物語:04 第四部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
この論文は恐ろしくポレミックなもので、自分のように初めから『枕草紙』諸異本を見たことがないと告白している素人でさえ、鋒先ほこさきを胸先に感じさせられた。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
にんじんは壁に額とすねとを押しつける。壁を突き破らんばかりに押しつける。両手で尻っぺたを隠す。鳴動が始まると同時に襲来する爪の鋒先ほこさきを防ぐためである。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
独のオーストリアにおける、英の露における、独の露における、欧州諸国のトルコにおける、その鋒先ほこさきはみな西より東に向かって運動を試みんとするにあらずや。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
けれどもジャン・ヴァルジャンは鍵穴かぎあなから蝋燭ろうそくの光を見て取って、口をつぐんで探偵たんてい鋒先ほこさきをくじいた。
アキリスがいかって希臘がたからおどり出した時に、城の中に逃げ込まなかったものはヘクトー一人であった。ヘクトーは三たびトロイの城壁をめぐってアキリスの鋒先ほこさきを避けた。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
木ベエはふだん酒を飲まないタチだが、たまたま酔うとシツコクからむ奴で、先刻からだいぶ丹後にからんでいたが、どうした風向きだか、やにわに鋒先ほこさきを海老塚にむけて
不連続殺人事件 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
それほど、新兵衛はそのしごき出す三間の大身の鎗の鋒先ほこさきで、さきがけ殿しんがりの功名を重ねていた。そのうえ、彼の武者姿は戦場において、水ぎわ立ったはなやかさを示していた。
(新字新仮名) / 菊池寛(著)
後年になって漱石氏の鋭い方面はその鋒先ほこさきをだんだんとふくろの外に表わし始めたが
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
二人の生酔いの悪ざむらいは、鋒先ほこさきをそらして、ずっと前へ進んでしまいました。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その英国をふせぐにはどうしたらよいか、英国がこのチベットを取ろうという考えを持って居る、その鋒先ほこさきはどういう風にふせいだらよかろうかということを、始終考えて居られるようです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
のみならず時々は先手せんてを打ってKの鋒先ほこさきくじきなどした。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ソレから浪士の鋒先ほこさきが洋学者の方に向いて来た。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
平次は質問の鋒先ほこさきを變へました。
鋒先ほこさきの後方へ向いた角では、ちょっと見るとぐあいが悪そうであるが、敵が自分の首筋をねらって来る場合にはかえってこのほうが有利であるかもしれない。
名古屋方と木曾福島の山村氏が配下との反目はそんなお触れ状のはじにも隠れた鋒先ほこさきをあらわしていた。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
公家の階級は、承久じょうきゅうの乱後、反抗の力を失って、好んで武士にびた。粗暴な活気を保持していた大寺の僧兵も、武士階級の威圧によってようやくその鋒先ほこさきを鈍らせた。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
みなその尋問の鋒先ほこさきをば全局面なる日本の将来はいかんという点に向けざるべからず。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
なるべくその鋒先ほこさきを避けてこちらから頼んで金を取って貰うようにするです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
検事はいかにもまことらしく、シャンマティユーいや換言すればジャン・ヴァルジャンの犯罪は、その敗徳文学の影響であるとした。その考察が済んで、彼は直接ジャン・ヴァルジャンに鋒先ほこさきを向けた。
今までの彼女は彼を通して常に鋒先ほこさきをお延に向けていた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
だれかが夫人のほうに鋒先ほこさきを向けた。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
第五巻の初めにおいて、ルクレチウスは、さらに鋒先ほこさきを取り直して彼の敵手たる目的論的学説に反抗している。そうして神を敬遠して世界と没交渉な天の一方に持ち込んでいる。
ルクレチウスと科学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
はたして、幕府方の反目は水戸浪士の処分にもその隠れた鋒先ほこさきをあらわした。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)