鉱山やま)” の例文
旧字:鑛山
「この一年の記念のために、最後の鉱山やまの鉱石をひろってきた。われわれ四人の遺骨だ。数もちょうど四つある。ひとつずつだいて帰ろうや」
キャラコさん:04 女の手 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
旦那を鉱山やまへ還してから、女が一里半程の道をくるまに乗って、壮太郎のところへって来るのは、大抵月曜日の午前であった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
夏のころ市岡が大阪の中野君の事務所へ訪ねて来たことがあって、これこれの硫化の鉱山やまがあるから是非どこかへはめ込んでくれという事だった。
金山揷話 (新字新仮名) / 大鹿卓(著)
こがねが地の下で泣いている』『地の下からこがねの匂いがする』と……そこで私はある日のこと丑松を連れて二人きりで鉱山やまの中を彷徨さまよい歩きました。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「さア、不断ふだんだって、何処へどう行っちゃうか分らない人達ですからね、軍夫にとられたり、鉱山やまへ送られたり……」
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
「あんたが水商売でわては鉱山やま商売や、水と山とで、なんぞこんな都々逸どどいつないやろか」それで話はきっぱり決った。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
「新たに一ノ関へ加えられた領内に、金の鉱山やまがある、それから産する金は、本藩のものか、一ノ関のものか、船岡どのはどちらが至当と思われるか」
「ごじょうだんでしょう、めッたやたらに、そんな鉱山やまがあってたまるもんですか」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それだけならばまだいでしょう。そこへまた時々親戚しんせきなどから結婚問題を持って来るのよ。やれ県会議員の長男だとか、やれ鉱山やま持ちのおいだとか、写真ばかりももう十枚ばかり見たわ。
文放古 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
くすれたような鉱山やまの長屋が、C川の両側に、細長く、幾すじも這っている。
土鼠と落盤 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
いそがしい父の小閑ひまを見てはひざをすりあわせるようにして座りこんでいた。いつも鉱山やまのことになると訥弁とつべん能弁のうべんになる——というより、対手あいてがどんなに困ろうが話をひっこませないのだ。
旧聞日本橋:08 木魚の顔 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「その鉱山やまからダイヤモンドが出るんだとさ。」と、料理番はいいました。
それがこの前のガス爆発で、危く死にそこねてから——前に何度かあった事だが——フイと坑夫が恐ろしくなり、鉱山やまを下りてしまった。爆発のとき、彼は同じ坑内にトロッコを押して働いていた。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
キャラコさんも黒江氏も原田氏も、山下氏がそういう以上、鉱山やまはすこしずつうまく行っているのだろうと思っていた。ところが、それは嘘だった。
キャラコさん:04 女の手 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
市とS——町との間にある鉱山やまつづきの小さい町に、囲われていたことは、お島も東京を立つ前からきかされていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そして、勤務に精通した下士一人に、兵二人を残して、箇旧の守備隊に復帰すべく、鉱山やまを下りて行った。
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
胆のつぶれるような高賃で手伝いに出た村人たちは、八百助殿はみえなくなった一年間にきん鉱山やまを掘り当てたか、打出の小槌こづちでも拾われたに違いないとうわさをし合った。
市岡の持っていた鉱山やまが五つ六つある筈なんだよ。そんなもの、細君や弟が何処かへ売り込もうとしたって、どうせブローカー仲間にいいように騙されてしまうにきまっている。
金山揷話 (新字新仮名) / 大鹿卓(著)
鉱山やまなんてものはなかなか当るもんじゃアないさ。殊に、ダイヤモンドの鉱山やまなんてものはね。」彼は横眼でセエラをじろりと睨みました。「わしらは、誰だって、そんな事ぐらい知ってるさ。」
「いやうそではない、すぐにこれから、その鉱山やま出立しゅったつするのだ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
丁度ちょうど鉱山やまと一緒にM——へ売り渡されたものゝ如く。
土鼠と落盤 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
鉱山やまでも同じだった。——新しい山に坑道を掘る。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
アメリカでは鉱山やま歩きばかりしていたということだが、皮膚の芯まで日にやけ、一流のスポーツマンに見る、健康そのもののようなさわやかな印象を与える。
あなたも私も (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
窓をあけると、鳶色とびいろに曇った空の果に、山々の峰続きが仄白ほのじろく見られて、その奥の方にあると聞いている、鉱山やまの人達の生活が物悲しげに思遣おもいやられた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「あたいはりゅうさんていう痘痕あばたのおやじが、鉱山やまへ働きに行けば、お母さんにもお金をやれるし、子供でも戦争の役に立つんだと云ったから路三ルサンや、万里ワンリなんかと一緒に来たんだ」
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
「原因はなんだい。やはり鉱山やまのいきさつか。今どきちょっと珍しい出入りだね」
金山揷話 (新字新仮名) / 大鹿卓(著)
秩父ちちぶ御囲おかこ鉱山やまから掘り出した炉甘石ろかんせきという亜鉛の鉱石、これが荒川の便船で間もなく江戸へ着く。
平賀源内捕物帳:萩寺の女 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
掃除がすむと、鉱山やまでつかう道具をそろえて、すぐ出かけられるようにしておく。五時には台所の食卓の上で、味噌汁とご飯が湯気ゆげをあげて山へ行く四人を待っている。
キャラコさん:04 女の手 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)