鉄輪かなわ)” の例文
旧字:鐵輪
それに、岩滑新田と大野の間にはとうげが一つあるから、よけい時間がかかる。おまけにその頃の人力車の輪は、ガラガラと鳴る重い鉄輪かなわだったのである。
おじいさんのランプ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
鉄輪かなわ」の「今更さこそ悔しかるらめ、さてりや思い知れ」と金槌かなづちくぎを打ち付ける様をする時は、腰を折って執心する眼に注意するようにと教えたこと。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
小面こおもてや若女やぞうの面などはわけても大好きでございます。でも鉄輪かなわの生成や、葵の上の泥眼でいがんや、黒塚に使う近江おうみ女などは、凄味すごみがありまして恐ろしゅうござります
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
神職 鏡——うむ、鉄輪かなわ——うむ、蝋燭ろうそく——化粧道具、べに白粉おしろい。おお、お鉄漿はぐろ可厭いやなにおいじゃ。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
やがて母と兄は下に待っているくるまに乗って、楼前から右の方へ鉄輪かなわの音を鳴らして去った。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
たけなす髪を二つに分けてつのに作り、顔に朱をさし、身にたんを塗り、鉄輪かなわをいただいてその三つの足に松をともし、松明たいまつをこしらえて、両方に火をつけ、口にくわえて、夜更け人定まって後
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
馬車は鉄輪かなわであつたから凄まぢい地響きを挙げてまつしぐらに狂奔した。
歌へる日まで (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
鉄輪かなわの話を翻訳したる「妬女貴布禰明神とぢよきぶねみやうじんに祈る事」も然り。
案頭の書 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
鉄輪かなわを走らしつつ外科医院げくわゐゐんの児は過ぎゆき
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
出しもの 袖香炉そでごうろ(手向)、なのは、黒髪、すりばち、八嶋、江戸土産、鉄輪かなわ、雪、芋かしら、都鳥、八景、茶音頭おんど、ゆかりの月、桶取おけとり(次第不同)出演者名及番組は当日呈す
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
神職 じたばたするなりゃ、手取てどり足取り……村のしゅにも手伝てつだわせて、そのおんな上衣うわぎ引剥ひきはげ。髪をさばかせ、鉄輪かなわを頭に、九つか、七つか、蝋燭をともして、めらめらと、蛇の舌の如く頂かせろ。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
白衣ははじめからわかっているが、近づくに従って熟視すると、髪はうしろへ下げ髪に、その上へ鉄輪かなわを立てて、三本の蝋燭ろうそくが燃えている。足は跣足はだしです。それから首に鏡のようなものをかけている。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)