あわたゞ)” の例文
あわたゞしく裂きて中なるふみをとりいだすに、いと長き消息の、前半は墨濃く筆のはこびも慥なれど、後半は震ふ筆もてかすかに覺束なくしるされたるを見る。其文に曰く。
聞き巡査の剣幕は打って代り「いや貴方あなたでしたか、そうとは思いも寄りませず」とあわたゞしく言訳するを聞捨てしきいを一足館内に歩み入れば驚きてこゝつどえる此家の店子たなこの中に立ち
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
あるひ其頃そのころ威勢めをひ素晴すばらしきものにて、いまの華族くわぞくなんとして足下あしもとへもらるゝものでなしと、くちすべらしてあわたゞしくくちびるかむもをかし、それくらべていま活計くらしは、きえしもおなじことなり
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
緊張した顏の人間があわたゞしく出たり入つたりしてをります。
われはその接吻の渾身こんしんの血にみ渡る心地して、あわたゞしく我手を引き退け、酒店の軒に馳せ入りぬ。
かくと見て倉子はあわたゞしく「プラトやこれ」と制するに犬はたちまち鎮りて寝台のしたに退けり
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
そのあわたゞしくはしり去りしさまは我心魂を奪ひ、われは身邊の柱楹ちゆうえい草木悉く旋轉せんてんするを覺えて、何故ともなく馳せ出し、荊莽けいぼうの上を踏みしだきつゝしづかに歩める人々を追ひ越し行きぬ。
あわたゞしく入来いりきたり何やらん目科の耳に細語さゝやくと見る間に目科は顔色を変て身構し「し/\すぐに行く、早く帰ッて皆にそうえ」と、命ずる間もいそがわしげなり、男は此返事をるや又一散いっさんに走去りしが
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)