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遍
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わた
飯がすむと、お庄は二階へあがって叔父の
寝所を片着けにかかった。冬の薄日が部屋中に
行き
遍っていた。
かかる
中にも心に
些の
弛あれば、
煌々と
耀き
遍れる
御燈の
影遽に
晦み行きて、
天尊の
御像も
朧に
消失せなんと
吾目に見ゆるは、
納受の恵に
泄れ、
擁護の綱も切れ果つるやと
粲然としたる紋御召の
袷に
黒樗文絹の
全帯、
華麗に
紅の入りたる友禅の
帯揚して、
鬢の
後れの
被る
耳際を
掻上ぐる左の手首には、
早蕨を
二筋寄せて
蝶の宿れる
形したる例の腕環の
爽に
晃き
遍りぬ。
お作は机に
肱を突いて、うっとりと広い新開の町を
眺めた。
淡い冬の日は折々曇って、寂しい影が一体に
行き
遍っていた。
凍んだような人の姿が夢のように、
往来している。お作の目は
潤んでいた。
四辺は真昼より
明に、人顔も
眩きまでに
耀き
遍れり。