わた)” の例文
飯がすむと、お庄は二階へあがって叔父の寝所ねどこを片着けにかかった。冬の薄日が部屋中にわたっていた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
かかるうちにも心にちとゆるみあれば、煌々こうこう耀かがやわたれる御燈みあかしかげにはかくらみ行きて、天尊てんそん御像みかたちおぼろ消失きえうせなんと吾目わがめに見ゆるは、納受のうじゆの恵にれ、擁護おうごの綱も切れ果つるやと
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
粲然ぱつとしたる紋御召のあはせ黒樗文絹くろちよろけん全帯まるおび華麗はなやかべにの入りたる友禅の帯揚おびあげして、びんおくれのかか耳際みみぎは掻上かきあぐる左の手首には、早蕨さわらび二筋ふたすぢ寄せてちようの宿れるかたしたる例の腕環のさはやかきらめわたりぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
お作は机にひじを突いて、うっとりと広い新開の町をながめた。うすい冬の日は折々曇って、寂しい影が一体にわたっていた。かじかんだような人の姿が夢のように、往来ゆききしている。お作の目はうるんでいた。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
四辺あたりは真昼よりあきらかに、人顔もまばゆきまでに耀かがやわたれり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)