はぐ)” の例文
兄弟ふたりは、何年ぶりかで会ったのである。戦場から戦場の生涯に行きはぐれたままのように——久しぶりの邂逅かいこうだった。しかも、変った姿で。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
時鳥ほととぎすの姿を見ようなら、声のした先へ眼をやらなければ見えないのに、お通さんのは、後へ後へと行っては、行きはぐれているように思えるが……
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その又八の監視と束縛そくばくをうけながらも、たまいだくように、貞操を護持して、やがて武蔵、城太郎など、行きはぐれた人々が
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その間に、父義朝や家人けにんむれからはぐれてしまったものであろう。わずか十間か二十間もへだてると、もうお互いの姿も見えない白毫はくごう霏々紛々ひひふんぷんなのだ。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「これより西の山間やまあいには、まだ他に、はぐれた味方がおったであろうか。——長追いして、帰らぬ味方を見なかったか」
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
高氏は、うごかしていた団扇うちわの手をやめた。ツイと吸い込まれるようにはぐれて来たほたるが、団扇の端にとまッたので、それをいとしむかのような沈黙をふとまもった。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二日も無性ぶしょうしていれば、あごにまばらな白いものがキラつく年だ。死に場所が大事だと思う。それにはこのお方の馬の口輪からはぐれないことだと思い極めたのである。
茶漬三略 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、熱風をうしろに、火から遠い野原まで逃げ走ってきながら、万一多勢おおぜいの子どものうちの一人でも、途中ではぐらせてはと、時々、振りかえって、頭数を読んでいた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「え、そうなんです。まさか、ここに又八さんがいようなんて、夢にもあたし知らなかった。……ただ、いつぞや、ここへはぐれて来た時に、お通という人は見かけたけれど」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
つうと共にはぐれてから、その年から数えれば足かけ三年目——あの時十四、去年で十五
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
頼朝にはぐれた時政父子おやこは、道をたがえて、箱根路から湯坂を越え、甲斐かいのほうへ落ちようと志したが、三男三郎は、土肥山から早川へ来る途中、伊東祐親入道の兵に囲まれて討死し
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
昨日きのうからはぐれかけた——いや、馬籠まごめ女滝男滝めたきおたきからずっとれがちに彷徨さまよってばかりいた武蔵の心が——ふしぎにも今朝は、自分の歩むべき大道へ、しっかと返っている心地だった。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
城太郎は、首を横に振って、行きはぐれたような眼を足もとの水の渦におとした。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その大蔵が、はぐれた城太郎をれて、他国へ旅立ったというのを聞いて——。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なぜそのしょねんへ返れというのに素直に返らぬ。——正成は武門、しかし、正成の骨肉のひとりが、そのような道へはぐれ出たことを、かなしむどころか、じつはひそかに心ではよろこんでいたのだ。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「駈けもどって、殿軍しんがりされているまに、お慕いはぐれたとみえまする」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「野駈けのうちに、はぐれておしまいになったので」
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)