近習きんじゅう)” の例文
「いやいやそれは偽りでござる! 腰元も近習きんじゅうも知る訳がない! ——がしかしここにただ一つ、それを知られる手段てだてがござる」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
といって、重喜は、今手にとった早状はやじょうを一読すると、それを三位卿に渡し、自身は近習きんじゅうの者と一緒に、望楼を下りていった。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
よしや二三の者が認めたとしても、近習きんじゅうの小姓か何かゞ月に浮かれてうろついているのだとでも思ったのであろう。
讃州高松さんしゅうたかまつ、松平侯の世子せいしで、貞五郎ていごろうと云ふのが、近習きんじゅうたちと、浜町はまちょう矢の倉のやしきの庭で、たこを揚げて遊んで居た。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
この上は修禅寺の御座所へ寄せかけ、多人数一度にこみ入って本意を遂ぎょうぞ。上様は早業の達人、近習きんじゅうの者どもにも手だれあり。小勢の敵と侮りて不覚を取るな。場所は狭し、夜いくさじゃ。
修禅寺物語 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
夕方、近習きんじゅうが燭を運んで来たとき、今夜、村上義清が折入ってお目にかかりたいと申されていますが、と内意を訊ねていた。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
昔から名高い木曽の盆踊り、盆踊りの歌でもうたってくれ! 今日は一切無礼講じゃ、老職であろうと近習きんじゅうであろうと、そんな事にはお構いなしだ。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
近習きんじゅうとざま外様の者までもおあつめになって、のぶながの奴、いまにえちぜんをほろぼして此のしろへ攻めてくるであろう、えちぜんのくにの堅固なあいだに
盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その時、土間すそに、小姓こしょう江橋林助えばしりんすけ近習きんじゅう渡辺悦之進わたなべえつのしんの二臣が、野良着を平常のものに着更きかえて、迎えに立っていた。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そちの養子葉之助、今年十二の弱年ながら珍らしい武道の達人の由、部屋住みのまま百石を取らせる、早々殿中へ差し出すよう、近習きんじゅうとして召し使いつかわす」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
此のとき河内介輝勝も則重の近習きんじゅうとして従っていたが、八月十日の合戦の最中に、則重が城の大手おゝてから十五六丁離れた森の小蔭こかげに馬を立てゝ軍勢を指揮していると
『誰ぞ、あの飛び交うつばめを斬り落してみい』と。——そして近習きんじゅうの中に交じっていた数右衛門に、眼が止まった。
濞かみ浪人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さて、その翌朝のことであるが、近習きんじゅうの真田源五郎が信玄の前へ端坐かしこまった。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
近習きんじゅうの小姓しゅうと当番役のものだけをおそばへお置きなされました。
盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
常なら、近習きんじゅう、または表役人を通じてえっすべきなのに、いきなり、各〻作事さくじ支度のわらじばきで、庭先へ平伏したのは、よほど何か狼狽ろうばいしているとみえる。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しばらく経って常氏は近習きんじゅう数人を後に従え悠然と書院へ歩を運んだが、めず臆くせずもうけの座に端然と坐っていた右京次郎を見ると「ははあこれは本物だな」と、さすがにすぐに直覚した。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
近習きんじゅうたちも笑えば、侍女こしもとたちも、笑いこけるほどであった。そして周囲は、主人の物質的な栄華よりも、そのむつまじさに、心からうらやましさを覚えるのだった。
日本名婦伝:太閤夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と云いながら、近習きんじゅうの犬丸は手をつかえた。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
妙なうめきを聞いたのは、有村ばかりでなかったとみえて、小姓部屋からひとりの近習きんじゅうが走りだし、やはり錠口じょうぐちに立って、耳を澄ましているふうだったが、うす暗い所から
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おら、店のお客に聞いたんだけど、むかし塚原卜伝つかはらぼくでんなんかは、道中する時にはお供に乗換馬のりかえうまを曳かせ、近習きんじゅうには鷹をこぶしにすえさせて、七、八十人も家来をつれて歩いたんだってね
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
石見守は、近習きんじゅうしゃくをさせながら、トロンとした眼で見おろした。若侍はひざをついて
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
近習きんじゅうが走り出ると、すぐ老中の秋元但馬守が、愴惶そうこうとして、そこへ来て平伏する。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
主命とあって、近習きんじゅうでも飛びかかって来たら、一かつして退しりぞけてしまうつもりであろう、鋭い白眼はくがんが、じっと一同をめつけた。他ならぬ千坂兵部である。誰も、手を出すことはしなかった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
折ふし朝食のしたくが調ったので、近習きんじゅうたちが運びかけて来ると
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
深夜ではあったが、旗本から近習きんじゅうへと取次を仰いで
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夜伽よとぎ近習きんじゅうなどに洩らすこともあった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)