軽重けいちょう)” の例文
旧字:輕重
寒温痛痒の軽重けいちょうを明言する能わずして、無益に診察の時を費すのみか、其医師は遂に要領を得ずして処方に当惑することありと言う。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
坂東武者というやつは、元来がそういうところで自己を託している人間の将器というものの軽重けいちょうを、内々、はかっているやつだ。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
れ、汝等きさまら、裸にしようが、骨を抜こうが、女郎めろう一人と、八千の民、たれかなえ軽重けいちょうを論ぜんやじゃ。雨乞を断行せい。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
釈迦しゃかの説いた教によれば、我々人間の霊魂アニマは、その罪の軽重けいちょう深浅に従い、あるいは小鳥となり、あるいは牛となり、あるいはまた樹木となるそうである。
おぎん (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
爾後じご病牀寧日ねいじつ少く自ら筆を取らざる事数月いまだ前約を果さざるに、この事世に誤り伝へられ鉄幹子規不可ふか並称へいしょうの説を以て尊卑そんぴ軽重けいちょうると為すに至る。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
唯、利益、存在の意義の軽重けいちょうによって、それが予期したより十年前にみずから倒れるか、十年後に倒れるかである。
模倣と独立 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
藩内の粛正にむすびつけておられる、昔の貴方はそうではなかった、貴方はいつも重厚で思慮深くかりそめにも事の軽重けいちょうをみあやまるような方ではなかった
義務そのものは絶対的であるとしても、個人がこれに対すれば軽重けいちょう本末ほんまつ主従しゅじゅう大小だいしょう遠近えんきん等によりて関係的相違あり、決して絶対的に同等なものでない。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
近松ちかまつ西鶴さいかくが残した文章で、如何なる感情の激動をもいいつくし得るものと安心していた。音波おんぱの動揺、色彩の濃淡、空気の軽重けいちょう、そんな事は少しも自分の神経を刺戟しげきしなかった。
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
昇進を願わば華族にまじわるべし、またこれをさまたぐる者なし。これに遠ざかるもこれにまじわるも、果してその身に何の軽重けいちょうを致すべきや。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
このようなことに、席を蹴って、御不興のままお帰りなどなされたら、坂東ばんどう武者に、あなたのかなえ軽重けいちょうを問われましょうが
日本名婦伝:静御前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
軽重けいちょうを別にして考えると、この方がむしろ急にせまっていた。一日も早く彼女に会うのが得策のようにも見えた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかしてみずから重んぜざる人がいかにして他人より重んぜられようか。人爵的じんしゃくてき軽重けいちょうならばいざ知らず、心より発する尊敬などは自ら重んぜざる人に払うものはあるまい。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
大小の区別のつく、軽重けいちょうの等差を知る、好悪こうおの判然する、善悪の分界をみ込んだ、賢愚、真偽、正邪の批判をあやまらざる大丈夫が出来上がるのが目的である。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あえてその人物を軽重けいちょうするにはあらざれども、真に市校に心を帰して疑わざる者は、果して門閥の念を断絶する人物なるが故に、本文のごとくこれを証するのみ。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
まして、あなたが大統をうけて以来日も浅いうちに、かようなことが華やかに世間の語り草となっては、新将軍のかなえの軽重けいちょうを問わんとする者がないとも言えません。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ここにおいて男性としてくべからざる要素は事の本末ほんまつ物の軽重けいちょうを分別する力である。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
本来醜美は自身の内に存するものにして、毫末ごうまつも他に関係あるべからず。いやしくも我が一身の内に美ならんか、身外しんがい満目まんもくの醜美は以て我が美を軽重けいちょうするに足らず。
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
善悪、理非、軽重けいちょう、結果を度外に置いて事物を考え得るならば、浅井君は他意なき善人である。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
また男といい女といい、ひとしく天地間の一人にて軽重けいちょうの別あるべき理なし。
中津留別の書 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)