賃銭ちんせん)” の例文
旧字:賃錢
わたくしは初め行先を聞かれて、賃銭ちんせんを払う時、玉の井の一番賑な処でおろしてくれるように、人前をはばからず頼んで置いたのである。
寺じまの記 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
というは、轎夫きょうふとしてかつげば、相当の賃銭ちんせんを受ける一つの商売である。しかし壮丁として行くのは公利公益のために力を尽すのである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
ひつかゝりのひとつは、現に彼の眼前めのまへに裸体になつてモデル臺に立つているお房だ。お房は、幾らかの賃銭ちんせんで肉體のすべてをせてゐるやうないやしいをんなだ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
それに咳嗽せきが出る。ちょうどそこに行田に戻り車がうろうろしていたので、やすく賃銭ちんせんをねぎって乗った。寒いみちを日のれにようやく家に着いた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
これいかんとなれば縮を一たんになすまでに人のらうする事かぞへつくしがたし。なか/\手間てま賃銭ちんせんあて算量つもる事にはあらず、雪中に籠居こもりをる婦女等ふぢよらむなしくせざるのみの活業いとなみ也。
すると車夫は十二銭の賃銭ちんせんをどうしても二十銭よこせと言う。おまけに俺をつかまえたなり、会社の門内へはいらせまいとする。俺は大いに腹が立ったから、いきなり車夫を蹴飛けとばしてやった。
馬の脚 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
しかしチベット語と英語の字引だけはぜひ買いたいと思ってまた五十ルピー借入れ、荷物はボンベイの間島さんの方へ賃銭ちんせん先払いで送り、そして私がボンベイに着いたのは四月上旬であります。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
あれが年もきませんから届きません、只私を大事にして呉れます、日々あゝやって御城下へ参りまして、荷を置いて参ります、又彼方あちらから参る物は此方こちらへ積んで参りまして少々の賃銭ちんせんを戴きます
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
職業としてかごになうのでなく、また賃銭ちんせんを要求するためでもない。したがって仮りに賃銭を払われてもこれを受くるをいさぎよしとせぬ。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
人力車じんりきしゃ賃銭ちんせんの高いばかりか何年間とも知れず永代橋えいたいばし橋普請はしぶしんで、近所の往来は竹矢来たけやらいせばめられ、小石や砂利で車の通れぬほど荒らされていた処から、れも彼れも
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その上求むることも出来ませず「これから歩くのも非常に困難ですから馬車をどうかして戴きたい。賃銭ちんせんは払いますから」といいますと「それはむつかしい話だ」とお二人とも困って居られたですが
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
前にいった轎夫きょうふ賃銭ちんせんは金銭で計算されるが、壮丁そうていの僕に対する好意は金銭をもって換算かんさんできぬものである。しかしてこれが一番貴重きちょうなる務めである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)