そらん)” の例文
北條時宗むかえ撃って大いにこれやぶったことは、およそ歴史を知るほどの人は所謂いわゆる元寇げんこうえき」として、たれそらんじている所である。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
先生は女が髪を直す時の千姿万態をば、そのあらゆる場合を通じてことごとくこれを秩序的にそらんじながら、なお飽きないほどの熱心なる観察者である。
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
私がその顔をそらんじていなければならない理由でもあると言うのだろうか? 私は急に不愉快に感じながら訊き返した。
一つのエチケット (新字新仮名) / 松濤明(著)
河原崎座の狂言は二人共度々見たが、なか/\せりふそらんじ尽すわけには行かぬので、それから毎日二人で立見に往つた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
祈のこゝろをばわれ知らざりしかど、祈の詞をばわれ善くそらんじて洩らすことなかりき。僧は我をかはゆきものにおもひて、あるとき我に一枚の圖をおくりしことあり。
私は十万分の一の地図をながめているが、もうすっかり頭へ入っているのであろう、病人は細かい地名までことごとく宙でそらんじているのであった。正確無比な話であった。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
森からそこへ縁附いた人の後に、小字経太郎こあざなみちたろう、寿専というのがあって、幼い時から学問を好んで、いて学ぶ師が皆驚くほどでした。家蔵の書を残りなくそらんじたのです。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
それから、流場のざるの下とか、敷板の下などを点検し、蛞蝓は火箸で摘んで、塩で溶かすのであった。妻は蛞蝓の居そうな場所と、出て来る時刻を、すっかりそらんじていた。
吾亦紅 (新字新仮名) / 原民喜(著)
これらの四子は、さきに失敗を招いた夏侯楙駙馬かこうもふばなどとは大いに質がちがっていて、兄のは弓馬武芸に達し、弟のけい六韜三略りくとうさんりゃくそらんじてよく兵法に通じ、他の二兄弟もみな俊才の聞えがあった。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と四十年後の今日こんにちいまだに尋常一年の読本をそらんじているのでも分る。
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
余は我身の今の世に雄飛すべき政治家になるにも宜しからず、また善く法典をそらんじて獄を斷ずる法律家になるにもふさはしからざるを悟りたりと思ひぬ。
舞姫 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
翰はつとに唐宋諸家の中でも殊に王荊公おうけいこうの文をそらんじていたが、性質驕悍きょうかんにして校則を守らず、漢文の外他の学課は悉く棄ててかえりみないので、試業の度ごとに落第をした結果
梅雨晴 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
我家のとは違ひて、この卓にはかもを被ひたり。われはよその子供の如く、そらんじたるまゝの説教をなしき。聖母のむねより血汐出でたる、穉き基督のめでたさなど、説教のたねなりき。
余は我身の今の世に雄飛すべき政治家になるにもよろしからず、また善く法典をそらんじて獄を断ずる法律家になるにもふさはしからざるを悟りたりと思ひぬ。
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
友はいさゝかおくれたる氣色もなく、かのダンテを詠ずる詩をしたり。式場は忽ち水を打ちたるやうに鎭まりぬ。讀誦どくじゆの力あるに、聽くもの皆感動したるなり。われは初より隻句をのこさずそらんじたり。
毎日学校へのゆきかへりに提灯の名を早くもそらんじ女同士が格子戸こうしどの立ばなしより耳ざとく女の名を聞きおぼえて、これを御神燈の名に照し合すほどに、いつとなく何家の何ちやんはどんな芸者といふ事
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
余はわが身の今の世に雄飛すべき政治家になるにもよろしからず、またよく法典をそらんじて獄を断ずる法律家になるにもふさわしからざるを悟りたりと思いぬ。
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
『聴水簃襍吟』の中に「静中愛聴煮茶声。日与風炉訂好盟。」〔静中聴クヲ愛ス茶ヲ煮ルノ声/日ニ風炉ト好盟ヲむすブ〕また房州谷向村の作には「特喜厨婢諳食性。香蔬軟飯薦槃喰。」〔ダ喜ブ厨婢ノ食性ヲそらんズルヲ/香蔬軟飯槃喰ヲ薦ム〕
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)