裏白うらじろ)” の例文
「そうですか——ですが、ここからまいりますと、木元きもと裏白うらじろなんていう、けわしい山や峠ばかりで、いくら山好きでもあきあきしますぜ」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その片隅かたすみ印袢天しるしばんてん出入でいりのものらしいのが、したいて、さい輪飾わかざりをいくつもこしらへてゐた。そば讓葉ゆづりは裏白うらじろ半紙はんしはさみいてあつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
〆縄しめなわ裏白うらじろ、橙、ゆずり葉、ほん俵、鎌倉海老えびなど、いずれも正月に使用するものですから「相更あいかわらず……」といって何事も無事泰平であるように
ある家庭で歳末に令嬢二人母君から輪飾りに裏白うらじろとゆずり葉と御幣ごへいを結び付ける仕事を命ぜられて珍しく神妙にめったにはしない「うちの用」をしていた。
雑記帳より(Ⅰ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
それは唐津の山に無尽蔵に生じる植物、歯朶しだまたは裏白うらじろとも言いますが、藁の代りにこれを用いるそうです。
古器観道楽 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
上品なところでは婚礼が済むと、その家の門の前で、裏白うらじろに水をつけて肩衣かたぎぬへ少しずつ注ぎかける——それが身分に応じて、水の代りに「はぜ」を以てすることもある。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
おそらく一丈にも近いだろうと思われる樺太蕗のすばらしい高さ、その紅い線の通った六角形の太茎ふとぐき裏白うらじろの、しかも緑の表面の、八月の日光を透かす夕立のような反射。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
なかには大晦日おおみそか門飾かどかざりもすんだ頃になって、松や裏白うらじろなどを山から背負いおろして、何処どこでも買ってくれる家が無かったという類の滑稽談こっけいだんもあり、わざわざ海の神に捧げようとして
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
芝茸しばたけとなへて、かさ薄樺うすかばに、裏白うらじろなる、ちひさなきのこの、やまちかたにあさきあたりにも群生ぐんせいして、子供こどもにも就中なかんづくこれが容易たやすものなるべし。どくなし。あぢもまたし。宇都宮うつのみやにてこのきのこくほどあり。
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
その片隅かたすみ印袢天しるしばんてんを着た出入でいりのものらしいのが、下を向いて、さい輪飾わかざりをいくつもこしらえていた。そば譲葉ゆずりは裏白うらじろと半紙とはさみが置いてあった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)