行平ゆきひら)” の例文
さらに彼の兄行平ゆきひらに至っては、一層詩人的な情熱家であったにかかわらず、詩人としてはほとんど無能で、ようやく末流の才能しか持ってなかった。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
男3 とにかく、それは死んだ行平ゆきひらものですよ。確かにそうです。……全く執拗しつこいったらありゃしない……(左へ退場)
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
行平ゆきひらなどは今も大時代おおじだいの形であります。蓋物ふたもので黒地に白の打刷毛うちばけを施したものがありますが、他の窯には見当らない特色を示します。大中小とあります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
しかし、忠明が、肩を落しながらね上げた行平ゆきひらの切先もまた、小次郎のたもとを、五寸ほど切り飛ばしていた。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これは申合わせの時にもなかったので皆驚いたらしかったが、何事もなく済んでから、シテの謹之介氏は床几を下って、「松の行平ゆきひらはまことに有難う御座いました」
梅津只円翁伝 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
海は少し遠いのであるが、須磨の関も越えるほどの秋の波が立つと行平ゆきひらが歌った波の音が、夜はことに高く響いてきて、堪えがたく寂しいものは謫居たっきょの秋であった。
源氏物語:12 須磨 (新字新仮名) / 紫式部(著)
しかも故郷に対する叛逆であろうともままよ、今もって全日本を通じて、海の歌、海の絵とさえ言えば、ぜひとも松の木を点出しようとする古臭い行平ゆきひら式を憎むのである。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
これもよく蒸れるように厚い鉄の深い鍋かあるいは重い土鍋の行平ゆきひらがよく出来ます。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
批評も小説も新躰詩も何でも巧者じやうずで某新聞に文芸欄を担任する荒尾あらを角也かくなり耶蘇教やそけうの坊さんだとかいふアーメン臭い神野かみの霜兵衛しもべゑ、京都の公卿伯爵の公達きんだち鍋小路なべこうぢ行平ゆきひら——斯ういふ人達だよ
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
お銀が勝手の方でといで来た米を入れた行平ゆきひらを火鉢にかけて、かゆを拵えていると、子供は柔かい座蒲団のうえに胡坐あぐらをかいて、健かなえを感ずる鼻にうまい湯気を嗅ぎながら待っていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
家からお米も炭も取り寄せ、火鉢ひばちの炭火でいた行平ゆきひら中子しんのできた飯をんで食べた。自炊をきらふ階下の亭主の当てこすりの毒舌を耳に留めてからは、私はたいがい乾餅ほしもちばかり焼いて食べてゐた。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
筑前の野間のまの皿山でさかんに作る行平ゆきひらは、白土で線を引いた地方的な味の濃いものであります。ですが筑前では何といっても西新町にししんまちの窯を挙げねばなりません。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
裏山をいだいている約四百坪ほどの山芝の平庭ひらにわを見ると、師の小野治郎右衛門忠明は、日頃、持ち馴れている行平ゆきひらの刀を抜いて、青眼せいがん——というよりはやや高目にひたと構え
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
隠栖いんせいの場所は行平ゆきひらが「藻塩もしほれつつぶと答へよ」
源氏物語:12 須磨 (新字新仮名) / 紫式部(著)
あるいは土鍋どなべ行平ゆきひら石皿いしざら湯婆ゆたんぽ、粗末なそれらのものばかりは、醜い時代の力にまだ犯されずにいる。日々忙しく働く身だけは、病いも犯しにくいと見える。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
「とすると——行平ゆきひら小鍛冶こかじ正宗まさむね、あんな仲間でございますか」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それよりも本当の雑器を焼く丸柱まるばしら村の窯の方を取上げたく思います。土鍋、行平ゆきひら、土瓶など色々出来ますが、とりわけ丸柱の土瓶は評判であって、多くの需用に応じました。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)