蜆汁しじみじる)” の例文
さいは一六がねぎと薩摩芋の難波煮なんばに、五十が豆腐汁とうふじる、三八が蜆汁しじみじると云うようになって居て、今日は何か出ると云うことはきまって居る。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
名物の蜆汁しじみじるだの看板の芋の煮ころがしに、刺身鳥わさなどで、酒も二猪口ふたちょこ三猪口口にしたが、佞媚ねいびな言葉のうちに、やり場のない怨恨を含んで
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
向嶋にてこのたぐひの茶屋といへば入金いりきん繁昌はんじょう久しきものにして蜆汁しじみじるの味またいつまでも変らぬこそ目出度めでたけれ。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
鬼門きもんさわるようにおそれていた座敷ざしきだったが、留守るすだれかが這入はいったといては、流石さすがにあわてずにいられなかったらしく、こしらえかけの蜆汁しじみじるを、七りんけッぱなしにしたまま
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
その夏、土用あけの残暑のみぎり、朝顔に人出の盛んな頃、入谷いりやが近いから招待されて、先生も供で、野郎連中六人ばかり、大野木の二階で、蜆汁しじみじる冷豆府ひややっこどころで朝振舞がありました。
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「それが原因ですな。御馳走ちそうの食べ過ぎや。———蜆汁しじみじるを毎日飲むといいですな」
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
蜆汁しじみじるがおいしかった。せっせと貝の肉をはしでほじくり出して食べていたら
水仙 (新字新仮名) / 太宰治(著)
蜆汁しじみじるわん、鯉のあらい、田楽でんがく、それに酒。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
女中が持運ぶ蜆汁しじみじる夜蒔よまき胡瓜きゅうりの物秋茄子あきなすのしぎ焼などをさかなにして、種彦はこの年月としつき東都一流の戯作者げさくしゃとしておよそ人のうらやむ場所には飽果あきはてるほど出入でいりした身でありながら
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)