蘊奥うんおう)” の例文
旧字:蘊奧
それを研究するのが哲学の蘊奥うんおうだとやら申されますそうでございます、そうして見ると離魂病と申し人間の身体が二個ふたつになって
もし全般に通じようとすれば勢い浅薄に流れ、もし蘊奥うんおうを極めんとすれば勢い全般の事は分らずにしまわなければならぬような有様である。
しかれども、之を以て直ちに老生の武術に於ける才能の貧困を云々するは早計にて、つて誰か、ただ一日の修行にて武術の蘊奥うんおうを極め得たる。
花吹雪 (新字新仮名) / 太宰治(著)
いずれの楽器も蘊奥うんおうを極めることのむずかしさは同一であろうがヴァイオリンと三味線とはツボに何の印もなくかつ弾奏だんそうたびごとにげんの調子を
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
光秀の兵理軍学の蘊奥うんおうも、ここに至ってはすでに施し尽きていた。しかも彼は、今日明日のうちにも、敵城をみつぶさねばと焦心あせっていた。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
面壁九年能く道徳の蘊奥うんおうを究むべしといえども、たとえ面壁九万年に及ぶも蒸気の発明はとても期すべからざるなり。
文明教育論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
西洋人は到底日本人ほど印度の霊妙、支那の技芸の蘊奥うんおうきわめ得ぬから、結局東西の文化を悉く咀嚼し世界的完全なる発達を遂げる者は大和民族ならんか。
東西相触れて (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
しんを凝らし、もってますます妖怪の蘊奥うんおうを究め、宇宙の玄門を開き、天地の大道を明らかにし、生死の迷雲を払い、広く世人をして歓天楽地の間に逍遥しょうようせしめ
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
とは汝の常に歌いし処にして、その蘊奥うんおうなる意義を知らんがため汝は今働くこと能わざるものとなれり。
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
筆者は少年のころから専らにんじゅつを愛好しかつ惑溺わくできするあまり、これが史的事業の検覈けんかくと究明のため、文献を渉猟し遺跡を踏査して、すでにその蘊奥うんおうをきわめているが
徳川時代の歌人がわずかに客観的趣味を解しながら深くその蘊奥うんおうに入るあたわざりしは、第一に「新言語新材料を入るるべからず」という従来の規定を脱却するあたわざりしにる。
曙覧の歌 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
雑草は延びてじょうにも達し、庭木は形もしどろに繁って、自然の姿を呈して居り、昔は数奇をきわめたらしい、築山、泉水、石橋、亭、そういうものは布置においてこそ、造庭術の蘊奥うんおうを谷めて
弓道中祖伝 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
近ごろその草藁そうこうを持し来つて余に示す。余巻を開き、細玩するに、複する者はこれり、く者はこれを補ひ、なまる者はこれを正し、綜核究窮、直ちに原書の蘊奥うんおうつくす。その紹述の功勤めたりとふ可し。
杉田玄白 (新字新仮名) / 石原純(著)
「ご安堵あんどあれ、北条流ほうじょうりゅう蘊奥うんおうをきわめた丹羽昌仙にわしょうせんが、ここにあるからは、なんの、伊那丸いなまるごときにこの人穴ひとあなを一歩もませることではござらぬ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
然れども常識のみが智識にあらず、常識以外に智識あり。殊に学問は常識以外の智識にして、学問の蘊奥うんおうを極むれば、それだけ常識以外の常識を発達せしむ。
教育の最大目的 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
彼の片腕と頼まれて、三年の月日を経る中に伊那に不思議の老人あって、幻妙の術を使うと聞き、御嶽冠者に頼まれてその蘊奥うんおうを探らんため、汝に弟子入りせしに、吾をののしって近寄らしめず
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
常態は皮相にして、変態は蘊奥うんおうなり。前者は思議すべきものにして、後者は思議すべからざるものなり。ゆえに、妖怪学は宇宙の玄門を開き、事物の秘訣ひけつを究め、諸学の奥義を示す学なりと知るべし。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
兵法の道ほど蘊奥うんおうの深いものはない、多年の研鑽けんさんにいささか会得したと信じていた蝙也も、一女子のおまえに狙われれば、こんなに無造作にしてやられる、まだまだ俺などは未熟者だな、——町、まさに蝙也の敗北だ、約束どおり暇を
松林蝙也 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
十四の秋に祈祷きとうを覚え、十五の夏に蘊奥うんおうを極め、今年十九の四年間を諸国を巡って暮らしたが、再び故郷の諏訪へかえり、明神の孕石はらみいしおとりとして、我より優れた陰陽師に、巡り逢いたしと願ううち
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)