薄髯うすひげ)” の例文
声を懸けると三人が三人、三体の羅漢らかんのように、御者台の上と下に仏頂面を並べたのが、じろりと見て、中にも薄髯うすひげのある一体が
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
校長は薄髯うすひげのある、色の黒い、目の大きなたぬきのような男である。やにもったいぶっていた。まあ精出して勉強してくれと云って、うやうやしく大きな印のおさった、辞令をわたした。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
薄髯うすひげを生やした、少し無精らしい角顔の背の低い男——いつでも眠そうで、無口ですが、そのくせ仕事には至って忠実で、障子も張れば、水も汲むといった肌合の人間です。
薄髯うすひげ二重廻にじゅうまわし殊勝しゅしょうらしく席を譲った。
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
インキのつぼを、ふらここのごとくにつて、金釦きんぼたんにひしやげた角帽かくばう、かまひつけぬふうで、薄髯うすひげあたらず遣放やりつぱなしな、威勢ゐせいい、大學生だいがくせいがづか/\とはひつてた。
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
薄髯うすひげを生やした、少し無精らしい角顏の背の低い男——何時でも眠さうで、無口ですが、そのくせ仕事には至つて忠實で、障子も張れば、水も汲むといつた肌合の人間です。
箱のような仕切戸しきりどから、眉の迫った、頬のふくれた、への字の口して、小鼻の筋からおとがいへかけて、べたりと薄髯うすひげの生えた、四角な顔を出したのは古本屋の亭主で。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
『あゝ、つままれた……つままれたんだ。いや、薄髯うすひげへたつらで、なんとも面目めんぼく次第しだいもない。』
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
私はまた私で、何です、なまじ薄髯うすひげの生えた意気地のない兄哥あにいがついているから起って、相応にどうにか遣繰やりくってかれるだろう、と思うから、食物くいものの足りぬ阿母を、世間でも黙って見ている。
女客 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
(誰か妙の事を聞きに来たものはないか。)と云って、お前、車屋でまで聞くんだそうだな。恥しくは思わんか、大きななりをしやあがって、薄髯うすひげの生えたつらを、どこまでさらして歩行あるいているんだ。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
片手を袴に入れて、粛然として読書する薄髯うすひげのあるのを見て
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)