落魄おちぶれ)” の例文
人品ひとがらくって、やせっこけて、心配のありそうな、身分のある人が落魄おちぶれたらしい、こういう顔色かおつきの男には、得て奇妙な履歴があるものです。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そして些と娘の方を見て、「ですから私等も、とつ頃は可成かなりに暮してゐたものなんですが、此う落魄おちぶれちやくそですね。」
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
一人並いちにんなみをとこになりながらなん腑甲斐ふがひない車夫しやふ風情ふぜいにまで落魄おちぶれずとものことほか仕樣しやうのあらうものを
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「家でごすか、余程あれの為めに金のう打遣ぶつつかつたでがすが爺様とつさままだ確乎しつかりして御座らつしやるし、廿年前までは村一番の大尽だつたで、まだえらく落魄おちぶれねえで暮して御座るだ」
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
「花の都も」と歌いすすむと、見る見る涙が女の頬を伝いまして、落魄おちぶれた袖にかかりました。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
池田家の譜代として、歴乎れっきとした家禄のついていた家がらをつぶし、姫路の藩地からこのように流浪三界の落魄おちぶれの身となり終ったのも、元はといえば、女のためではないか。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
落魄おちぶれ男爵の娘から、こんなレストランの踊り子にかわった妾の身の上話を、シンカラ同情して聞いてくれたり、お料理やお菓子を色々取ったり、お酒をいくらでも飲んでくれたり
支那米の袋 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
着古しの平常衣ふだんぎ一つ、何のたきかけの霊香れいきょう薫ずべきか、泣き寄りの親身しんみに一人のおととは、有っても無きにおと賭博ばくち好き酒好き、落魄おちぶれて相談相手になるべきならねば頼むは親切な雇婆やといばばばか
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
あおあかじみて、筋でつないだばかりげっそり肩の痩せた手に、これだけは脚より太い、しっかりした、竹の杖をいたが、さまで容子ようすいやしくない落魄おちぶれらしい
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
熟々しみじみ奥様があの巡礼の口唇を見つめてい声に聞惚れた御様子から、根彫葉刻ねほりはほり御尋ねなすった御話の前後あとさきを考えれば、あんな落魄おちぶれた女をすら、まだしもと御うらやみなさる程に御思召すのでした。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
夫人おくさま、こりゃ是非お助け遊ばせ、きっといい人の落魄おちぶれたんです。」
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)