荷足にたり)” の例文
旧来の伝馬船てんません荷足にたりではなく、新式の舶来の蒸気船だ、蒸気船を山へ積み込むとは、なるほどこのごろの徳川幕府のやりそうなことだ
竹屋の渡しあたりを川上へいそぐ小舟が見えるほかは、広い川面に珍しく荷足にたりも動かず、かもめの飛ぶようすもなかった。
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
荷足にたり、小舟の類の帆を張り艫櫂ろかいを使ひて上下するのみなれば、閑静の趣を愛して夏の日の暑熱あつさを川風に忘れんとするの人等は、大橋以西、製紙所の上
水の東京 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
大根河岸は、露を載せた野菜の荷足にたりとその場で売買いする市場とで、ようやく喧嘩のようにざわめき出していた。
最後に川の上を通る船も今では小蒸汽こじようき達磨船だるまぶねである。五大力ごだいりき高瀬船たかせぶね伝馬てんま荷足にたり田船たぶねなどといふ大小の和船も何時いつにか流転るてんの力に押し流されたのであらう。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
不意をくらって、四人の役人は船頭もろとも、もろに川なかへ投げだされ、御用船のほうは上り下りの荷足にたり狭間はざまへはさまって退くも引くもならなくなってしまった……
顎十郎捕物帳:07 紙凧 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
さしも両国名物の川開きにも荷足にたりや伝馬、ダルマ船まで幅を利かせ、上流客は銀行会社の招待連と束になって料理屋のお二階、門前は自動車の押合いに暑苦しい時代風景
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
お秀の船宿は父親が生きている七八年前、素人の間に釣が流行り出した時分が全盛で、田舟十五六ぱいの外に荷足にたりが三艘、それに中古のモーター船もその時代に買入れました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
舁夫はもんどりを打ってドブりと仙台河岸へ落ると、そばに一艘の荷足船にたりぶねつないで居りまして、此の中に居たものは伊皿子台町いさらごだいまち侠客おとこだて荷足にたり仙太せんたという人で、力は五人力有って
せわしいモオタアや川蒸気や荷足にたりの往来が、すでに水の上に頻繁ひんぱんになっていた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
水面みのもには荷足にたりの暮れて呼ぶ声す、太皷ぞ鳴れる。
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
そこで私は、橋や荷足にたりを見残しながら
山羊の歌 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
今宵あれらの水びたしの荷足にたり
橋の上の自画像 (新字旧仮名) / 富永太郎(著)
空手むなで、——荷足にたりのたぶたぶや
春鳥集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
満潮と一緒に大根河岸へ上ってくる荷足にたりの一つに、今朝は歳末くれを当て込みに宇治からの着荷があるはずなので、いつもより少し早目に起き出た荷方の仙太郎は
猪牙ちょきで行くのは深川通い、八丁堀の仲ノ橋から乗合の荷足にたり舟、「早船・洲崎ゆき」と書いた川岸の小旗が目印、十二、三人の客を待つ間に「出ますよ出ますよ」とベルを鳴らす。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
「いま舟が来ます」とすぐそこに繋いだ荷足にたり船の上から、船頭らしい男が云った。
しじみ河岸 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
五大力、高瀬船、伝馬てんま荷足にたり、田舟などという大小の和船も、何時の間にか流転の力に押し流されたのであろう。僕はO君と話しながら「沅湘日夜東に流れて去る」という支那人の詩を思い出した。
本所両国 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
両側は崩れ放題の亀甲石垣きっこういしがき、さきは湊橋みなとばしでその下が法界橋ほうかいばし上流かみへ上ってよろいの渡し、藤吉は眇眼すがめを凝らしてこの方角を眺めていたが、ふと小網町の河岸縁に真黒な荷足にたりが二