茅場町かやばちょう)” の例文
人形町通りを歩いて茅場町かやばちょうから青山行のバスに乗って東京駅で下車して丸ビルを見た、丸ビルの店がかり、いつもと変るところはない。
美術館を出て、それから茅場町かやばちょうで「美しき争い」という映画の試写を一緒に見せていただき、後に銀座へ出てお茶を飲み一日あそんだ。
手足はもちろん骨まで氷りそうな風にさらされ、頭から白く粉雪に包まれた人々が、浅草橋の北詰から茅場町かやばちょうあたりまで列をつくっていた。
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
彼はそのことを多吉夫婦に告げ、朝の食事をすますとすぐ羽織袴はおりはかまに改めて、茅場町かやばちょうの店へ勤めに通う亭主より一歩ひとあし早く宿を出た。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「いや、この降るのに気の毒だが、ちっと調べて貰いたい御用がある。この頃、茅場町かやばちょうに変な奴があるのを知っているか」
半七捕物帳:26 女行者 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そして八丁堀茅場町かやばちょうの国文の大家、井上文雄の内弟子うちでしになった。彼女たちは内弟子という、また他のものは妾だともいう。
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
一歳ひととせ浅草代地河岸だいちがし仮住居かりずまいせし頃の事なり。築地より電車に乗り茅場町かやばちょうへ来かかる折から赫々たる炎天俄にかきくもるよと見る間もなく夕立襲い来りぬ。
夕立 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
もう、あの美しい錦絵にしきえのような人形町の夜のちまたをうろつく事は出来ないのか。水天宮すいてんぐうの縁日にも、茅場町かやばちょうの薬師様にも、もう遊びに行く事は出来ないのか。
母を恋うる記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
よろい渡舟わたしから茅場町かやばちょうまで一息に急いで、それから先の縁日の人みに交じると、初めて足を緩めました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
急に足を早めて茅場町かやばちょうからこんにゃく島、一の橋をわたって伊兵衛の家へといそいで来た。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
左千夫の家は本所ほんじょ茅場町かやばちょうにあるので牡丹ぼたんの頃には是非来いといわれて居たから今日不意に出て驚かしてやるつもりなのだ。格堂はさきへ往て左千夫の外出を止める役になった。
車上の春光 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
あの辺の生薬屋は一軒残らず訊いて歩くと、茅場町かやばちょうに浪花屋の番頭さんに下剤の大黄だいおう
茅場町かやばちょう交叉点こうさてんから一寸右へはいったところに、イワイと云う株屋がみつかった。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
⦅モシ、茅場町かやばちょうはどっちでえ、⦆ッちゃ、寝台の下へもぐり込んで拝みます。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
薬師寺行雲君は本所茅場町かやばちょうの松薪問屋の息で、家が資産家であるから、いろいろなことを研究し盆栽、小鳥、尺八、書画のことなどいずれも多芸であるが、最後に彫刻をやろうという決心で
本所ほんじょ茅場町かやばちょうの先生の家は、もう町はずれの寂しいところであった。庭さきのかきの外にはひろい蓮沼はすぬまがあって、夏ごろはかわずやかましいように鳴いていた。五位鷺ごいさぎ葭切よしきりのなく声などもよく聞いた。
左千夫先生への追憶 (新字新仮名) / 石原純(著)
日本橋区茅場町かやばちょう一番地、喜可久。其角きかくの三日月の文台、あかざの軸を見る。
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
日本橋茅場町かやばちょう両替屋鈴文手代。丁稚でっちより住み込み。
「か、駕籠屋かごや。か、茅場町かやばちょうだ。——」
歌麿懺悔:江戸名人伝 (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
上京以来早朝の水垢離みずごりを執ることを怠らなかった彼も、その朝ばかりはぐっすり寝てしまって、宿の亭主が茅場町かやばちょうの店へ勤めに通う時の来たことも知らなかった。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
茅場町かやばちょうの通りから斜めにさし込んで来る日光ひかげで、向角むこうかどに高く低く不揃ふぞろいに立っている幾棟いくむねの西洋造りが、屋根と窓ばかりで何一ツ彫刻の装飾をも施さぬ結果であろう。
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「青物市場へ行く人と、茅場町かやばちょうの薬師様へのお詣りの人と、それから——」
その頃榎本其角えのもときかくは、俳友小川破笠おがわはりゅうと共に江戸茅場町かやばちょうの裏店に棲んでいた。
其角と山賊と殿様 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
多吉の家では、ちょうど亭主も今の勤め先にあたる茅場町かやばちょうの店からもどって来ている時であった。そこへ半蔵が帰って行くと、多吉は彼を下座敷に迎え入れて言った。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
あい済みません、この通りで御在います。茅場町かやばちょうまでつづいておりますから……。」
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
茅場町かやばちょうでおのりかえ。」と車掌が地方訛いなかなまりで蛇足だそくを加えた。
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)