あっ)” の例文
猛獣犠牲いけにえて直ぐには殺さず暫時しばらくこれをもてあそびて、早あきたりけむ得三は、下枝をはたと蹴返せば、あっ仰様のけざまたおれつつ呼吸いきも絶ゆげにうめきいたり。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ことに老人の傷処きずしょあらため見ればのどを一突にて深く刺れ「あっ」とも云わずに死せしとこそ思わるれ、曲者くせものの去りたる後まで生存いきながらえしとはみとむ可からず、笑の浮みしは実際にして又道理なり
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
婦人はあっ身悶みもだえして、仰向あおむけ踏反返ふんぞりかえり、苦痛の中にも人の深切を喜びて、莞爾にっこりと笑める顔に、吉造魂飛び、身体溶解とろけ、団栗眼どんぐりまなこを糸より細めて
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あっとも言わせず、踏のめす気か足を挙げた赤熊は、四辺あたりに人は、邪魔は、と見る目に、御堂みどうともしびに送らるるように、参詣おまいりを済まして出た……清葉が、おぼろの町に、あかるいばかりの立姿。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
矢や銃弾もあたらばこそ、轟然ごうぜん一射、銃声の、雲を破りて響くと同時に、尉官はあっと叫ぶと見えし、お通がまげを両手につかみて、両々動かざるもの十分時、ひとしく地上にかさなり伏せしが
琵琶伝 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)