自然木じねんぼく)” の例文
杖は※状かぎのて自然木じねんぼくなるが、その曲りたる処に鼻をたせつ、手は後様うしろざまに骨盤のあたりに組み合せて、所作なき時は立ちながら憩いぬ。
妖僧記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
毛繻子張けじゅすば八間はちけん蝙蝠こうもりの柄には、幸い太いこぶだらけの頑丈がんじょう自然木じねんぼくが、付けてあるから、折れる気遣きづかいはまずあるまい。
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
すべてが一心を打込んで踊っているうち、ひとり、例の猩々だけは踊らない。自然木じねんぼくの切株に腰うちかけ、中啓を以て踊りの庭を監督しているていです。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
白い長いひげを胸まで垂らして、自然木じねんぼくつえを持ってたようだ、と云ってましただ、七福神の絵にある寿老人みてえだった、と云ってたそうでごぜえますよ
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
失礼でござりますがひとついかがでござりますと自然木じねんぼくつえいつけてあるひもをほどいて何かを取り出した。
蘆刈 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「ハイ、胸に白髯しらひげを垂れ、身にくずの衣裳を着け、自然木じねんぼくの杖を突きましたところの、異相の老人にございます」
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
巨大な石材や自然木じねんぼくさくに囲まれている建物は、原士の詰めている山番所、その向うに目付屋敷が見えた。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
襖の隣に、何かの自然木じねんぼく床柱とこばしらと、壁の落ちたとこの一部分とが見えているのだが、その床の間に、大型の支那かばん程もある頑丈な木箱が置いてあって、その三分一ばかりが視線の中に入っている。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
庫裡の一室は疊が破れて、自然木じねんぼくの大きな火鉢が置いてあつた。
ごりがん (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
雨の降る日だったので、私は無論かさをさしていた。それが鉄御納戸てつおなんど八間はちけんの深張で、上からってくるしずくが、自然木じねんぼくを伝わって、私の手をらし始めた。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
くずの衣裳を身に纏い、自然木じねんぼくの杖をつき、長い白髯はくぜんを胸へ垂れた、飄逸洒落ひょういつしゃらくな老人と、その侍童の菊丸とが、富士山麓鍵手ヶ原の、直江蔵人くらんどの古館へ、一夜のやどりを乞うた晩
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
とちょっとかざした、火入れは欠けてくすぶったのに、自然木じねんぼく抉抜くりぬきの煙草盆。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
金次は仰山に自然木じねんぼくステッキを構え、無事に飽倦あぐめる腕を鳴して
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)