うし)” の例文
北側のピッツォ・ディ・パリュ Pizzo di Palü, 3912m. まで、極めて大規模な曲線を画がいて、うしろには
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
うしろには刈られたあとの畑が鳶色の地肌を現わし、そのところどころに小石原があって、褐色になった麦藁が厚く毛羽立っていた。
麦畑 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
マアサは、靴下一つの殆んど裸体にされた上、靴紐でうしろ手に緊縛されたまま、外套を被って往来へ転げ出たところを、通行人に救われたのだった。
双面獣 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
とにかく二人ふたりの顔を見る事はどうしてもできない。葉子は二人にうしろを向けますます壁のほうにもがきよりながら、涙の暇から狂人のように叫んだ。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
……間髪をいれず、そのときうしろ幕が落ち、野遠見のとおみとなり、すこんからんと見得を切ったがそのまた型の悪さ。「音羽屋」と声かける客さえなかった。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
それらの列の下りてくるうしろの、いつとは知らない間にすつかり色の変つた空路そらぢに、昼まから浮んでゐた白い月。
測量船 (新字旧仮名) / 三好達治(著)
「何うしても俺には物語の中から抜け出て来た人物とより他には思へない——人形と云はうか、夢と云はうか——踊り子達のうしろからは甘美の後光が……」
夜の奇蹟 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
中庭のうしろの納屋に続いた潜り戸をあけると雑木林が左右に枝をからみ合せていたので、其処そこに立つとちょうど洞穴の入口を前にしたような、落葉に埋れた小径が五
三等郵便局 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
「右の手に算盤そろばんを持って、左の手に剣をにぎり、うしろの壁に東亜図を掛けて、ふところには刑事人類学を入れて置く、これでなければ不可いかん、」などとしきりに空想を談じていた。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
一つを田圃組たんぼぐみといふ、その他にも折助は数々あれども、この二つの折助の最も勢力ある山の手組のうしろには、百万石の加賀様あり、田圃組の背ろには鍋島様が控へてゐる故とぞ申す
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
女たちは金銀のケエプをしっくりと身体からだに引き締めて、まるでりんうろこを持った不思議な魚のようだった。彼女らの夜会服の裾は快活に拡がっていて、そうしてうしろの一部分は靴にまで長かった。
踊る地平線:09 Mrs.7 and Mr.23 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
播磨 (すっくと起って、大手を拡げて郁之進と加世をうしろにかばう)
稲生播磨守 (新字新仮名) / 林不忘(著)
うしろに倒れ、歌つたよ
山羊の歌 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
と思うとそのうしろの数歩離れたところに、つば広の帽子をかぶったあから顔の主人が、太短いステッキを振りながら畑の間を歩いているのが見えた。
麦畑 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
うしろは急な岩山で、すぐ前にはウルネル・ゼーの暗い水をへだてて、仰ぐようにオーベルバウエン Oberbauen の峰つづきが屹えている。
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
そのとき御簾みすが上がり、浪に兎のうしろ幕派手やかに張りめぐらした高座の前、ぞろりとした浅黄縮緬の紋付を着た若い真打が両手を前に、ひれ伏していた。烈しい拍手が浴びせられた。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
蒼古そうことでも評したいほど枯れた文字のうしろに燃えていると園は思った。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
で、顔をあげると、一人の見知らぬ男が、うしろから屈みこんで、向うに碇泊している帆船の方をあごでしゃくっていた。
っぽけな山を指さしたら、左様さよう、あれは、そう、ミュルレンのうしろの山ですがなと考えてた、篦棒奴べらぼうめ、ミュルレンの西にあればミュルレンのうしろの山にきまっていらあ。
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
臨検の役人たちはそのとき一斉に、被疑者であるその男の方へ眼をつけたが、男は二人の看守に護られながら、しゃんと顔をげ、うしろへ両手を廻わして、相変らず傲然と突立っているのであった。
青蠅 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)