肯定こうてい)” の例文
それにきては本邦ほんぽうならび欧米おうべいある霊媒れいばいによりて調査ちょうさをすすめた結果けっか、ドーも事実じじつとしてこれ肯定こうていしなければならないようであります。
と、朝倉先生は、飯島の言うことを肯定こうていするというよりは、むしろさえぎるように言って、をそらした。そしてちょっと思案したあと
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
理に合わなければ、彼等は得心とくしんしないのだ。しかもその理論は自分たちの観念を基数として立てたものでなければ肯定こうていできない。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
顔面かおは判らぬが、髪かたちに、それから又身のまわりの品物などを一々肯定こうていしたので、轢死婦人は隅田乙吉の妹うめ子であると断定された。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
悟空には、嚇怒かくどはあっても苦悩はない。歓喜はあっても憂愁ゆうしゅうはない。彼が単純にこの生を肯定こうていできるのになんの不思議もない。
と私も肯定こうていした通り、お互はいまだに親友だ。始終往来ゆききをしている。何方どっちも成功しないから、殊に話が合うのかも知れない。
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
彼女はそれを肯定こうていするように、丁寧に頭を下げた丈けだったが、青年が自分を覚えていてれたことが、彼女をどんなによろこばしたか分らなかった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
これがお新の口から引出した肯定こうていの言葉でした。そして、斯う言つたのを後悔でもするやうに、お新は顏をたもとに埋めて、母屋の方に驅け出してしまひました。
で、今夜も時平に詰め寄られると、次第に云うことがしどろもどろに、口の先では否定しながら顔つきでは肯定こうていし始めたのであったが、時平がなおも追究すると
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
肯定こうていの様にもとれます。そうかと思えばまた、まるで無邪気に何事も気づいていない様でもあります。
算盤が恋を語る話 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
寺内氏はその時、老人の持っている主義というか哲学というか、そんなものから、自分の今日までを照らし合わして、なかば肯定こうてい的なものを感じたとのことであった。
地図にない街 (新字新仮名) / 橋本五郎(著)
私『どうして君はまた、今日こんにちまでそんな事を黙認していたのだ?』三浦『黙認していたのじゃない。僕は肯定こうていしてやっていたのだ。』私は三度みたび意外な答に驚かされて
開化の良人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それとは反対に父の死を肯定こうていするような祖母の話が、君子の耳の底にかすかに残っている。
抱茗荷の説 (新字新仮名) / 山本禾太郎(著)
肯定こうていして返辭することは出來なかつた。私の周圍の人たちは、みんな反對の意見を持つてゐた。私は默つてゐた。リード夫人は、私に代つて、意味あり氣に頭を振つて見せた。
凡そ人間の現実に関する限りは、空想であれ、夢であれ、死であれ、怒りであれ、矛盾であれ、トンチンカンであれ、ムニャムニャであれ、何から何まで肯定こうていしようとするものである。
FARCE に就て (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
しぶんもそのひとりだと反省して、自己嫌悪じこけんおの情がわく。だが、それは強くない、心のどこかで、こういう種類のことが、人の生きていくためには、肯定こうていされるのだと、春吉君には思えるのであった。
(新字新仮名) / 新美南吉(著)
その通りであると肯定こうていしているものの如くである。そして彼は彼の考えどおり軍を進ませた。隴右ろうゆうの大路へ出でて正攻法を取ったものである。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かれは、むろん、大河の言葉のすべてを肯定こうていした。しかし、肯定すればするほど、やり場のない感情がかれの胸をしめつけ、ゆすぶり、にえたぎらした。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
瑠璃子るりこ夫人は、事もなげに打消した。美奈子は、母が先刻自分に肯定こうていしたことを、こうも安々と、打ち消しているのを聴いたとき、内心少からず驚いた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
それを聽いてゐる多勢の人の顏には、孝吉の言葉を肯定こうていする色がはつきりと現はれてゐるのです。
手段しゆだんを選ばないといふ事を肯定こうていしながらも、この「すれば」のかたをつける爲に、當然たうぜん、その後に來る可き「盗人ぬすびとになるより外に仕方しかたがない」と云ふ事を、積極的せきゝよくてきに肯定する丈の
羅生門 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
一応、意見として、聞いている顔はしていたが、信長は、勝家などのいう理論に、決して肯定こうていしたのではない。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その眼はおびえきっておりますが、平次の問いを肯定こうていも否定もしようとはしません。
肯定こうていに伴ふ「とても」は東京の言葉ではない。東京人の古来使ふのは「とても及ばない」のやうに否定に伴ふ「とても」である。近来は肯定に伴ふ「とても」も盛んに行はれるやうになつた。
澄江堂雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「ごもっともでござる」親鸞は、国時のことばを大きく肯定こうていしながら、すぐにまた
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
平次はそれには肯定こうていも否定も與へませんでした。
かれは、あきらめるよりほかない所へさびしい肯定こうていを落して
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)