粉薬こぐすり)” の例文
旧字:粉藥
かぢ「おう/\大層黒血が流れる、私のうちはツイ一軒いて隣だが、すぐに癒る粉薬こぐすり他処よそから貰って来てあるから宅へおいで」
細い小路こうじを突き抜けると、支那町の真中へ出た。妙なにおいがする。先刻さっきから胸が痛むのでポッケットから、粉薬こぐすりを出して飲もうとするがあいにく水がない。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
市野さんは袂から小さい粉薬こぐすりの壜を出して、これは秘密の薬だから決して人に見せてはいけない、飲んでしまったら空壜を川のなかへほうり込んでしまえという。
水鬼 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
言ひ忘れたが、零余子の本職は粉薬こぐすりと粉薬とを乳鉢の中ですり混ぜる薬剤師である。
それにしてもその毒はどこにしまってあるだろう。さっきも着物はこっちが着せ替えてった。粉薬こぐすりか何かを紙入に入れて持っていはしないか。紙入はあの上着にあるはずである。いやいや。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
玄関には、腰掛けたのや、上込んだのや、薄汚い扮装なりをした通ひの患者が八九人、詰らな相な顔をして、各自てんでに薬瓶の数多く並んだ棚や粉薬こぐすりを分量してゐる小生意気な薬局生の手先などを眺めてゐた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「例の恐ろしい粉薬こぐすりだが、どこからお前さん手に入れたのさ?」
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
粉薬こぐすりやあふむく口に秋の風
自選 荷風百句 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
帰りがけに玄関脇の薬局で、粉薬こぐすりのまま含嗽剤がんそうざいを受取って、それを百倍の微温湯びおんとうに溶解して、一日十数回使用すべき注意を受けた時、宗助は会計の請求した治療代の案外れんなのを喜んだ。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これ/\なんでも医者いしやとほりになれ、素人しろうとくせなにわかるものか、これ舎利塩しやりえん四匁しもんめ粉薬こぐすりにしてつかはすから、硝盃コツプに水をいてうしてめ、それから規那塩きなえんを一ぶんれるところぢやが
華族のお医者 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)