窮鼠きゅうそ)” の例文
家康が、総攻撃の令を発したときなどは、まさに、窮鼠きゅうそが猫をむの勢いを示し、寄手は、城兵の銃弾に、かなりな犠牲を強いられた。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と言うて手をつかねて捕われるのもな話、窮鼠きゅうそかえって猫を噛むというわけではないが、時にとっての非常手段を試みるよりほかはない。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
窮鼠きゅうその勢い、という感じで、そちらにいた捕方の者は、わっと左右へ崩れたった。千之助はそれを追うようにみせ、身をひるがえして、走りだした。
山彦乙女 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
彼等は弱い市民を脅迫して、あくまでこの街を死守させようとするのであったが、窮鼠きゅうその如く追いつめられた人々は、巧みにまたその裏をくぐった。
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)
追い詰められた薪十郎、今は窮鼠きゅうそ、猛然とし、血だらけの顔を真ん向かい「毒婦めエーッ」と躍りかかった。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
窮鳥はふところに入る事があり、窮鼠きゅうそねこをかむ事があるかもしれないが、追われたねずみが追う人の羽織はおりの裏にへばりつくという事はあまりこれまで聞いた事がなかった。
ねずみと猫 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
窮鼠きゅうそかえってねこをかむってえ古ことわざもあるんだ。主従のよしみだからね、いざとなったら、あれをちょっぴり、ね、ほら、いいですかい。草香流でおまじないを頼んますぜ。
自分の胸が事の真相をいちばんくわしく知っているのだ。腕を組んでみた。が、しばらく彼は窮鼠きゅうそのかたちであった。眼を光らせて、前にならんだ官員の顔をじろじろながめていた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
別の場合もあるので——世の中には、窮鼠きゅうそかえって猫を噛むという言葉もある。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
みだりに反抗するものではないのである。しかるに何故に反抗するかというと、忍び得るだけは忍んで、忍ぶべからざるに至って、初めて窮鼠きゅうそ猫を噛むの勇を起して、反抗を始めるのである(拍手)。
平和事業の将来 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
またある者は裁判官や民衆にびて、自己の死後の名前を幾分なりとも有利にしようともくろんだり、いずれを見ても窮鼠きゅうその心情の哀れさを、紙の上に反映しなかったものとてはただの一つもない。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
と、思い知ったに相違ない平馬、窮鼠きゅうそ、猫を噛もうと
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
窮鼠きゅうそのような哄笑こうしょうだ。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
窮鼠きゅうそねこを噛むということも一応思ってみる必要がある。ちょっと暗闇にひとみが馴れてこないうちは迂濶うかつに飛びかかれぬ気もした。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
武者ぶりつかれてかえって、度胸が据ったらしい旅の男——窮鼠きゅうそ猫をむというよりも、最初に猫をかぶっていた狐が、ここで本性を現わしたというような逆姿勢となって
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
するするとその手から得意のじゃがらみが投げ出されたかと見えましたが、いまし、名人の胸板めがけて窮鼠きゅうそ一箭いっせんが切って放たれようとしたそのときおそくこのとき早く、実に名技
と思うと同時に、峰丹波、今までふるえおののいていた鼠が、窮鼠きゅうそになった。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
しかし、窮鼠きゅうそが猫をむのたとえもあるから、檻の虎の料理は、やさしきに似て、下手をすれば、咬みつかれる怖れがある。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これは窮鼠きゅうそ猫をかむという東洋の古いことわざそっくりで、狼狽ろうばいのあまりとはいえ、あの身構えのザマは何だと、白雲は冷笑しながら近づいて行って、その首筋を取って引落そうとする途端を
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
が、瀕死ひんしの府といえ、北条方はそうでない。窮鼠きゅうその強さに加え、鎌倉最期の日とも覚悟してこぞり起てば、府内、なお三、四万の兵力は優にあろう。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
うかと手出しして、窮鼠きゅうそに噛まれなどいたしたら、其方どもよりは、信玄が世のもの笑いとなろう
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
荒木村重や佐久間父子おやこのような末路に終るかもしれないという危惧きぐ不安が——窮鼠きゅうその如く、生きんがために、一転この先手を打たせるに至ったものだ——という自己弁護も
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
猫を噛むの窮鼠きゅうそとなって、帯の間から引き抜いた匕首あいくち逆手さかてにもち、寄らば、お十夜にズタズタに斬られるまでも、こっちも、相手のどこかしらへ、一突き刺しいてやろうという女の一念。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
窮鼠きゅうそねこをかむとはこれだ、すてばちの怒号どごうものものしくも名のりをあげた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)