あな)” の例文
汝、われら悪魔がこの悲しき運命を知るや否や。わがかの夫人を邪淫じゃいんあなに捕えんとして、しかもついに捕え得ざりしを見よ。
るしへる (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「いや熊鷹くまたかじゃろう。あれは意地むさいでな。だがなあ喜惣、この片身はどうあっても、お前にはやれんぞ。あれは、第一わしあななんじゃ」
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
火がなくては暗くて判らない。火があっては相手が出て来ない。まことに始末が悪いので、かれらは相談して一種のおとあなを作ることにした。
馬妖記 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
のみならず、附近一帯に、ほりをめぐらし、それへ棚をかけて、また上から土をかぶせ、おとあなを作っておいたのを、西涼勢はそうとも知らず
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
次の間に寢入ねいりふうの吉兵衞はくはしく聞取り扨こそ案にたがはざりし山賊の張本ちやうほんなりけりかく深々ふか/″\あなの内に落し身の今更いまさらにげるともにがさんや去乍ら大望のある身を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
一度落ち込むと、ふっくり岩間を掩うた青苔の陥しあながするすると腰のあたりまで引き入れてしまう。頭の上では偃松の枝が手早く籠目を組んで、素知らぬ顔をしている。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
一日二日の休み場と思ひの外の逗留も、娘に弾かせし琴の音が、我心をも引止めしか。ままよ帰れといふまではと、腰を据えしが一期の不覚。素人を陥すあなとは気も注かず。
移民学園 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
てんでに、そこらに散らばっていたくわすきをひろいあげて、一気にあなを掘りひろげはじめた。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「抜かりはございませぬ。——しかも逆茂木打った道へは、八重やえ十文字に素縄を張りめぐらし、その上に、おとあなまで仕掛けてありますれば」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とにかく外見は友人のために時間や手数てすうをつぶしている、しかし事実は友人のためにおとあなを掘る手伝いをしている、——あたしもずいぶん奮闘主義ですが
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ですから、外に出たと思って中に入ろうとし、紙帳の垂れをまくって一足膝行いざると、今度は反対に外へ出てしまうのですが、その眼の前に、一つのあなしつらえてあるのです。
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
こんなところに誰か忍んでいるのかと怪しんで、彼は連れの者どもと共にそこらを探してあるくと、岡の上に一つのあながあって、それは古塚のくずれたものであるらしかった。
おのがおとしいれたあなから左膳を引きあげるために!
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「もし姜維が、出陣を止めてくれなかったら、わしは目をふさがれて、敵のおとあなへ歩いて行ってしまうところだった」
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が、ともかくも自分には一晩中とも思われるほど、長い長い間続いた後で、とうとうお敏は苦心の甲斐もなく、あの婆の秘法のあなに陥れられてしまったのでしょう。
妖婆 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
なんだかおとあなでもありそうに思われて迂濶うかつには歩かれない。
九月四日 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
木曾義仲よしなかのことをいったのであろう。義仲の弱点は武人のたれにも一応はある弱点である。いや人間のたれもが得意となればち入りやすいあなである。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「はは、馬鹿な奴め。自分で陥しあなを掘っていやあがる」
半七捕物帳:56 河豚太鼓 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
おとあなであったのだ。上を下へとうごめく将士は、あなから這い上がるところを、殲滅的に打ち殺される。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「……君を、小沛に置くのは、虎狩りの用意なのだ。陳大夫と陳登父子が、ぼつぼつおとあなをほりかけている。あの父子と計らって、ぬからぬように準備し給え」
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ばかな奴、あれは石岡へ炭を積んで出る荷駄馬だ。落しあなへ落ちた馬を、大汗掻いて引き出しておるわ。こっちで仕掛けた逆茂木を滅茶滅茶にしてしまいおった」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
深いあなへでも墜ち込むように、彼女のすがたが、闇を泳いだ。——とたんに、辺りに居残っていた四、五人の捕手が、ばらばらと寄って、その取り乱れた美しさを、無残に引ッ掴んで
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「一党を率いて、出向いたところを一網に御用ってなおとあなじゃあるめえな」
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
深さ二十尺もあるおとあなの底へ、馬もろとも落ちてしまったのである。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「気をつけないと、わしらが、おとあなに落ちてしまうよ」
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おとあなだ」
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)