いろ)” の例文
夕方銀行の仕事が済むと、給仕は自分のへやに入つて、その十二いろの週刊新聞に気も心も吸ひ取られたやうにじつと読み耽つたものだ。
彼には何か意固地いこじなものがあった。富贍ふせんな食品にぶつかったときはひといろで満足するが、貧寒な品にぶつかったときは形式美を欲した。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
何処どこへ寄りましたかねえ。あの人は、いろんなことを考えているので、お友達のところへ行くと長いから。」
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
年齢としには余程の相違はあったが平太郎と権八の二人は非常に気があっていた。二人は隔てのないいろ々な話をした後で、権八がふと大熊山の妖怪のことを云いだした。
魔王物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ジムというその子の持っている絵具は舶来の上等のもので、軽い木の箱の中に、十二いろの絵具が小さな墨のように四角な形にかためられて、二列にならんでいました。
一房の葡萄 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
野村は力が拔けた樣に墨を磨つて居たが、眼は凝然と竹山の筆の走るのを見た儘、いろ々な事が胸の中に急がしく往來して居て、さらでだに不氣味な顏が一層險惡になつていた。
病院の窓 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
峰「あの由兵衞という男は助平だからお前さんのこともいろんなことを云って居ましたよ」
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
あの中には中野の友人から贈られた茶の実ばかりでなく、築地つきじの方に住む知人が集めてくれた銀杏いちょう椿つばき沈丁花じんちょうげ、その他都合七いろばかりの東洋植物の種子があったことを思い出した。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
組合せ香水とかといふので、七いろばかりの綺麗なハイカラな香水の瓶が、行儀よくづらりと並んでゐた。調合器が付いてゐて、何でも自分の好きな香ひを調合してつかふやうになつてゐた。
香水の虹 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
色事いろの仕立て方のこと。金蓮きんれん良人おっとの目を縫うこと
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
学者には兜虫のやうな沈着家おちつきや蜻蛉とんぼのやうなそそつかしやと二いろの型があるが、桑原氏はどちらかといへば蜻蛉の方である。
例によって私は父に連れられていった。自由党の人たちが多く来ていたのであろう。あれは中島だよとか、あれは誰だよとかいろんな名をきいたが覚えてはいなかった。
今では四百いろの香料を手もなく嗅ぎ分け、どんな材料を当てがつても、一寸嗅いだばかしで、それから取れる香料を直ぐ判断する事が出来るさうだ。
人間に馬鹿と悧巧と二いろあるやうに、音曲にも二つの種類がある。一つは涙を流す音曲。今一つは汗を流す音曲。
その広岡氏と博士とがある時祇園の大友だいともへ遊びに往つた。大学教授には二いろあつて、一いろは芸者を女中のやうに「お前」と呼びつけ、一いろはお嬢さんのやうに「あなた」と言つてゐる。
フランクリンの頃には亜米利加全国を通じて、たつた六いろの新聞しか無かつたといふからにはフランクリンの携はつてゐた仕事だつて、忙しいとは言ひ条たかの知れたものだつたに相違ない。
亜米利加のいろんなまちから出る週刊新聞の主だつたもの十二いろばかりだつた。
十二いろの新聞を読む小僧11・3(夕)