いのり)” の例文
きっと見ていただけるし、きっと、見てもらえるようにするといういのりめいた心は、すこしも怠けることなく衣裳をとりかえさせたのであった。
玉章 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
しばらくすると、毛布の下にかがまっていた子供は、そっと顔をのぞき出す。屋根の上には風見かざみきしっている。といからは点滴しずくがたれている。御告みつげいのりの鐘が鳴る。
ってゐやるとほりの、執拗ねぢくれた、この罪深つみふかこゝろを、神樣かみさまゆるしてもらふため、いろ/\とおいのりをせねばならぬ。
朝の勤行おつとめの鐘のも、ゆうべいのりの鐘のひびきも満ちあふれるようなよろこびを告げる、春。
葡萄蔓の束 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
清少年と燁代さんは、その前にぬかずくと、黙っていのりをささげた。あの悲壮な鳥島沖の大海戦を思い出すと、なんだか胸がせまって、しらずしらずに涙が頬をつたうのであった。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
さらば汝等は呪誼せられざるべし。我は實に此の如く思議せり。此の如く思議して、復たいのりの詞を出すことあたはずして寢たり。舟はおだやかに我夢を載せて、北のかたヱネチアに向へり。
黒人のいのりの歌から暗示を得たとも言い、あるいは遠く故郷ボヘミアをしのんで、その民謡を採り入れたとも言われる、世にも美しく、絶え入るばかりにあわれ深い調べが、永劫えいごうの郷愁となって
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
いのりには効あり、ことばにはげんありければ、民翕然きゅうぜんとして之に従いけるに、賽児また饑者きしゃにはを与え、凍者には衣を給し、賑済しんさいすること多かりしより、ついに追随する者数万に及び、とうとびて仏母と称し
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
難有ありがたい太平の世のためにおいのりをするのですな。
花の思ひをさながらのいのりの言葉
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
筒井はこういういのりに似た声もひくくささやいて見ると、晴れがましく明るい気持になりからだが真白にかがやくようで、勿体もったいないみ仏の光をうけるような世界のあたらしさを感じた。
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
己のいのりは熱した受用じゅようであった。
筒井はこういういのりのような言葉を頭にうかべているあいだに、男はずっと遠のいてゆきほとんどその顔も見えないところにいるように感じ出した。そしてやっと筒井はやすらかさを胸におぼえた。
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
も少し強いいのり