硝子杯コップ)” の例文
畑の次手ついでに、目の覚めるような真紅まっかたでの花と、かやつりそうと、豆粒ほどな青い桔梗ききょうとを摘んで帰って、硝子杯コップを借りて卓子台ちゃぶだいに活けた。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
三人の紅茶を一個々々ひとつひとつ硝子杯コップせんじ出した時、柳沢時一郎はそのすっきりとせいの高い、しまった制服の姿をとう椅子いすの大きなのに、無造作に落していった。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
麦酒ビイル硝子杯コップ一呼吸ひといきに引いて、威勢よく卓子テエブルの上に置いた、愛吉は汚れた浴衣の腕まくりで、遠山金之助と、広小路の麦酒ビイヤホールの一方を領している。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
まかり違ったにした処で、往生寂滅をするばかり。(ぐったりと叩頭おじぎして、頭の上へ硝子杯コップを突出す)
山吹 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
またその手で、硝子杯コップの白雪に、鶏卵たまご蛋黄きみを溶かしたのを、甘露をそそぐように飲まされました。
雪霊記事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いたく身に染みた様子であった、金之助は改めて硝子杯コップを挙げ、「もう一杯ひとつ景気をつけよう、大分引込まれて私まで妙になった、お前にも似合わない何もふさぐにも当るまい、」
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
昼間歩行あるき廻った疲れが出た菅子は、髪も衣紋も、帯も姿もえたようで、顔だけは、ほんのりした——麦酒ビイルは苦くて嫌い、と葡萄酒を硝子杯コップに二ツばかりの——えいさえ醒めず
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
薄紅色うすべにいろ透取すきとお硝子杯コップの小さいのを取って前に引いたが、いま一人哲学者と肩をならべて、手織の綿入に小倉こくらはかまつむぎの羽織を脱いだのを、ひも長く椅子の背後うしろに、裏をかえして引懸ひっかけて
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
予等われらが詩、年を経るに従いていよいよ貴からんことこの酒のごとくならん、と誓ったそうだわね、と硝子杯コップを火にかざしてその血汐ちしおのごときくれないを眉に宿して、大した学者でしょう、などと夫人
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
窓掛に合歓ねむの花の影こそ揺れ揺れ通え、差覗く人目は届かぬから、縁の雨戸は開けたままで、心置なく飲めるのを、あれだけの酒ずきが、なぜか、夫人の居ない時は、硝子杯コップける口も苦そうに
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
愛吉は胸紐を巻込んで、懐に小さく畳んで持って来た、来歴のあるかの五ツ紋を取出して、卓子の上なる蘇鉄そてつの鉢物の蔭に載せた、電燈の光はその葉をすかして、涼しげに麦酒ビイル硝子杯コップに映るのである。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)