しゅん)” の例文
湖水の波も心あるか、つめたい風を吹きおこして、松のこずえにかなしむかと思われ、も雲のうちにかくされて、天地は一しゅん、ひそとした。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その一しゅんだ。富田六段の右の手が、さっとひらめくように動いたと見ると、モンクスのみ出した足首をさっとすくい上げた。
柔道と拳闘の転がり試合 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
眼と眼がガッチリ合って、火花を散らしそう——危機をはらんで、今にも激発しそうな沈黙が、一しゅん、また二瞬——。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
だれかが枕辺まくらべいたり、さけんだりするときにはちょっと意識いしきもどりかけますが、それとてホンの一しゅんあいだで、やがてなにすこしもわからない、ふかふか無意識むいしき雲霧もやなかへとくぐりんでしまうのです。
ただそくも養うあり、しゅんも存することあり、この心惺々せいせい明々めいめいとして、天理一息の間断なくして、わずかにこれよく昼を知るなり。これすなわちこれ天徳てんとくにして、すなわちこれ昼夜の道に通じて知るなり。
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
警官けいかんがまっさきにたって、中庭にとびだそうとした一しゅん……。
うつったものは乾燥かんそうされたワラであるし、屋根やねうらの高い小屋の木組きぐみは、一しゅんにして燃えあがるべくおあつらえにできている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しずかなること一しゅん、たちまち、パパパパパパパッ! と地を打ってきた蹄鉄ていてつのひびき、天馬飛空てんばひくうのような勢いをもって乗りつけてきたのは木隠龍太郎こがくれりゅうたろうである。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
長い時の流れからみれば、わたくしどもが見た半生のちまたなど一しゅんのまに過ぎませぬ。大地とはそれ自体、刻々とかわってゆく生き物ですから、かわるなといってもかわらずにおりません。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
酒の酔も、一しゅんに、消えてしまった様子。
濞かみ浪人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)