目星めぼ)” の例文
『もうたくさんだ。いくら目星めぼしいからって洗いざらい持って行かれるものじゃあない。自動車も待っておるんだ。さあ端艇ボートに乗ろうよ』
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
昔は様々の手仕事が藩から特別の保護を受けたでありましょうが、どういうものか目星めぼしいものは数多くは残されておりません。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
そして学生の言ふ通りに、京都の目星めぼしい靴屋の名前を一々克明に書き取つて、最後にアメリカ大陸発見にも比べられる記録の正確さを持つて
松下サーカスは目星めぼしい芸人が召集でも受けているのか、座頭の他には大人がなく、非常に下手で、半分ぐらい飛び移りそこねて墜落してしまう。
青春論 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
何しろ此の家の財産の目星めぼしい物といふ物が殘らずさらけ出してあるのだが、其れが始末好く取片付とりかたつけられてゐるから、其處そこらがキチンと締ツて清潔せいけつだ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
片端かたっぱしから迷宮にい込んだのだろう……なんかと思い思い、そんな迷宮事件や尻切蜻蛉しりきれとんぼ事件の一つ一つを点検して行くと、目星めぼしい記事がタッタ一つ見付かった。
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
売れ残りの年増ばかりで、少し目星めぼしいは、あるいは引かされ、あるいは住替えはいいとして、癲癇もちはお神も後難を恐れて、うんと負けて信州へ住替えさせ
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
だが、奥書院まで、幾室かの間数まかずを通って検分したところでは、格別目星めぼしい品物もなく、奇抜な仕返しの手段も思い当らないので、今かれは、とこの間に腰をおろすと
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
された。君の三年は他の人たちの六、七年にも相当しよう。もはや国へ帰っても、さして彫刻家として恥ずかしからぬと思われる。それにつけて帰国する前に何か目星めぼしい作をしては如何……
だが、どうせ頭を下げるのなら大石医院だけでなく目星めぼしいところをあらかた廻つてやらう、叮寧にやつたところでどつちみち損はないわけだと、この打算力に富んだ若い医師は考へついた。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
部屋にはこれといって目星めぼしい調度はない。卓子の上に灰皿と煙草があった。男の足下に新聞と、立消えになった巻煙草の呑さしが落ちている。その吸殻と卓上の煙草とは同一のマークがついている。
日蔭の街 (新字新仮名) / 松本泰(著)
とくに目星めぼしい発見はっけんなにもない。
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
遠江の都は浜松で、ここは誰も知る機業の地、激しいほど機の音を町々に聞きます。しかしこれとて目星めぼしい手仕事の跡を見ることは出来ません。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
目星めぼしいものは爆破の前に没収されて影をとどめず、ただ、頂上の瓦には成程金線の模様のはいった瓦があったり、酒樽ぐらいの石像の首が石段の上にころがっていたり
日本文化私観 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
銀座がネオンとジャズでき返るような熱鬧ねっとう躁狂そうきょうちまたと化した時分には、彼の手も次第にカフエにまで延び、目星めぼしい女給で、その爪牙そうがにかかったものも少なくなかったが、学生時代には
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「あすこが哲学、それから文芸、神学——とまあ、東西古今の書物で目星めぼしいものだけは残らず集めてあるがね。困つたのは火事だて。」と博士は火災保険の会社員のやうに一寸眉をしかめて
青山銀之丞は、宝暦元年の冬、御書院の宝物おあらための日が近付く前に、今までの罪の露見を恐れ、当座の小遣のために又も目星めぼしい宝物を二三品引っ抱えて、行衛ゆくえくらましてしまったのであった。
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
紅型びんがたの方は早くから評判があって、沢山内地に渡ったためか、そう目星めぼしいものは数ありませんでしたが、これに引きかえ織物の方はほとんど未踏地と呼んでもよく、贅沢ぜいたくな選択を楽々と致しました。
沖縄の思い出 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)